他界の旗
「あたしにはまだやるべきことが残ってる。それを果たすまでは死ねないし、世界を終わらせたままにするつもりもない」
「セレン……」
お前も同じ気持ちだったのか。
自身の使命の為に、自分の世界を取り戻そうとしている。
「あたしの過去、今、未来。どれ一つ、女神なんかに奪わせはしない」
セレンは再び歩き出す。
質問を発したサニーは、華奢な背中に一礼した。
「感謝します。殿下」
サニーも不安だったのかもしれない。自国の主が国を取り戻す気があるのかどうか、確証がなかったから。
研究室に向かう最中、俺とサニーはなんとなく隣を歩くことになっていた。
「ロートス」
「ん?」
「〈蓮の集い〉を憶えているか?」
「世界会議でセレンが言ってたな。国際同盟だっけか」
グランオーリス、マッサ・ニャラブ共和国、亜人連邦の三国から始まり、ヴリキャス帝国とハンコー共和国が加わった。
もともとはネオ・コルトに対抗するための軍事同盟だったはずだ。
「それがどうかしたか?」
「〈蓮の集い〉の存在は、発足後すぐに国中に報せが回った。報道機関もこぞって記事を書いていたが、その中に特に目を引く内容があったのを思い出してな」
「ふーん?」
「セレン王女殿下がロートス・アルバレスを婿に迎えるという記事だ」
「……なんだって?」
あの話が記事になっていただと? そんな話は聞いていないぞ。
あの話題を聞いていたのはごくわずかな人間だ。いったい誰が情報を漏らしたというのだろうか。
「当時のお前は魔王アンヘル・カイドを倒した英雄として讃えられていた。国民も王女との婚姻を喜んでいたんだ」
「俺は断ったんだけどな」
「事実がどうであれ、噂が国民の心を動かしたことに変わりはない。俺の恋人も、それを期に結婚を望むようになった」
「よかったじゃねーか」
「ああ。よかった。幸せだったさ」
ただでさえ明るくない顔つきのサニーは、さらに表情を沈ませた。
「式の前日に、世界は終わった」
俺は息を呑んだ。
エレノアが世界を創りかえたことで、サニーは愛する女との未来を奪われたのか。
「サニー」
「俺は必ずあの世界に戻る。あいつが待っているんだ」
そうかサニー。
お前も俺と同じだな。愛する女との未来を取り戻す。
なんか急に親近感が湧いてきた。
「そういうことなら、絶対やり遂げないとな」
「ああ」
「そういや俺は式に呼ばれてないぞ」
「〈蓮の集い〉の件で忙しかっただろう。気を遣ったんだ」
「水臭いな。世界を取り戻した暁には、ちゃんと呼んでくれ」
「考えておこう」
俺とサニーは互いにクールな笑いを浮かべる。
俺達は、あまりにもイケメンであった。




