始まりの地
洗濯機の中に放り込まれるような体験を二度もするとは思っていなかった。
二度目となると慣れもする。俺とサラは上手く魔力の波に乗って次元のゲートを通過することに成功。
セレンと原初の女神は見事なもので、まるで波乗りでもするかのように颯爽と転送魔法の空間内を飛翔していた。
サニーは相変わらずスタックしたポリゴンのようにあっちへこっちへぶっ飛びまくっていたけどね。
ゲートの先は街だった。
見覚えのある都。
そう。
王国が誇る魔法学園が屹立する、王都ブランドンである。
「ブランドン……まさかまたここに戻ってこられるとは思ってもみなかったな」
「懐かしいです。とっても」
俺とサラにとっては思い出の多い街だ。もちろんセレンにとっても。
「これは幻。記憶から形作られた模造品に過ぎない」
セレンはそう言うが、この景色を見て動く俺達の心は本物だろう。
かく言うセレンも思い出を手繰るような視線を、王都の街並み、その先の魔法学園に向けている。
「あそこに向かうのか?」
「そう。師匠がいる」
「おねぇちゃんが?」
サラがネコミミをぴょこっと動かす。
「サラも知らなかったのか?」
「はい。ボク達は四人で裏世界に来ましたけど、互いに顔を合わせることはありませんでしたから」
原初の女神が言っていたな。この街はサラ達を守る殻であると同時に、檻でもあると。
「あたしは時空魔法を使えるようになってから、たまに師匠に会いに行ってた」
「ウィッキーはセレンの魔法の師匠だもんな」
「そう」
俺達は足を魔法学園に向けた。ブランドンの懐かしい街並み。その風景がかつての記憶を思い出させる。
「ウィッキーとは何を?」
「裏世界の再現の精度はとても高い。魔法学園の蔵書ももれなく再現されてる。師匠と一緒にそれを読み漁ってた」
「エレノアが読んだことのない本もか? それはなんか妙だよな」
「神性とはそういうもの。個人の記憶に残らなくても、ある程度はあるがままを補完することができる」
そういえば『ユグドラシル・レコード』もそんな感じだったな。
エンディオーネにできるってことは、エレノアにもできるか。
「この世界について何かわかりましたか?」
「ん……」
サラの問いに、セレンは肯定とも否定とも取れない微妙な返事をした。
その曖昧な返答に、俺とサラは顔を見合わせる。
「とにかく学園に行ってウィッキーに会おう。もしかしたら、この裏世界から脱出するための手がかりを見つけてるかもしれないしな」
俺達はブランドンの街を歩きながら懐かしい風景に見入った。道行く人々の姿や店の賑わいはまるで現実のようだ。セレンが言った通り、これはただの幻かもしれないが、それでもここでの時間は俺達にとって貴重なものだった。
学園の大きな門に辿り着くと、サニーは感慨深そうに腰に手を当てた。
「魔法学園か。来たことがあるはずだが、もうほとんどうろ覚えだ」
「そういやサニーも魔法学園で学んだことがあるんだっけか」
「今となっては、遠い昔の話だ。何の感慨もない」
「そうか……俺達からすれば……この門の向こうには、たくさんの思い出が詰まってるんだ」
俺はサラとセレンを見つめ、次いで学園の校舎を見上げる。
「俺達が一緒に過ごした時間、学んだこと、全てがここにあるんだよな」
サラは俺の手を握ることで答えとしてくれた。
セレンも静かに頷いた。彼女の表情には、何かを決意したような強さが感じられる。
俺達は門を通り抜け、学内へと進んだ。セレンの先導で進む中、大講堂前の広場に辿り着く。
「ここは……」
忘れもしない。
入学して最初のイベント。クラス分け試験の始まった場所だった。




