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黒幕はいずこ

 城内に足を踏み入れた俺たちは、荘厳なる廊下を進んでいく。空気には静寂が漂い、かつてこの城が持っていた活気とは程遠い様子だ。壁にはつい先程まで手入れされていたかのような絵画や武具が掛けられており、場の異様さを演出していた。


「誰もいないか」


 サニーが口を開いた。


「いや……いるさ」


 俺には確信がある。

 この場所が安全であることも、その理由もわかるんだ。


 俺は壁にかけられた絵画を見上げる。

 最も大きなものには、グランオーリス王が描かれている。その隣に王妃の肖像画があり、その反対側には、表情に乏しい美少女が描かれた絵が堂々と飾られていた。


「セレンだ。セレンがここにいる」


「王女殿下が?」


「あいつは鍵の一つだ。サラと同じようにな」


 アヴェントゥラは主にセレンの記憶から創られた。エレノアと縁の浅いこの街が精巧に再現されているのも、そう考えれば納得がいく。


「だとすれば、お見えになってもよさそうなものだけどな」


「できない訳があるのでしょう」


 サニーの怪訝な声を受けて、原初の女神が即答した。


「ロートス。先程の現象ですが、妙だと思いませんか?」


「街の崩壊か? まぁ、とてつもなくヤベー感じではあったな」


「崩壊の程度ではなく、質の話です」


「どういうことだ」


「崩壊が起こる直前、エレノアの化身である顔面が苦痛に歪んだように見えました。私が思うに、街の崩壊は彼女の意図とは違った結果なのではないかと」


「エレノアの意図じゃない? 俺はてっきり、エレノアが異物を排除するためにあんなことを起こしたのかと思ったわ」


「その可能性もなくはない。ですが、私はより深刻な事態を危惧しています」


「というと?」


「外部からの干渉です」


 なんだと。


「精神世界である裏世界があのようにいびつに歪み壊れていくというのは些か以上に不自然です。表世界から何らかの干渉が行われていると見て間違いないでしょう」


「エレノアの心に直接影響を与えてるってことか? 一体誰が」


「分かりません。しかし、世界が崩壊するほどの負荷がかかっているとなると、限りなく彼女に近しい存在でしょう」


 エレノアに近しい存在か。

 俺を除けば、マホさんとか? あいつが帝国の聖女として活動していた時には、教会の奴らとも親密だっただろう。でも、それほど強い影響を受けるとも考えづらい。

 そもそも以前の世界はすでに書き換えられている。現在の表世界はデメテルを中心に成り立っているのだ。

 女神として崇められているエレノアに近しい人間なんているだろうか。

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