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油断は大敵という説

 剣を交わした瞬間、強烈な神性の波動が伝わってきた。

 シーラはエレノアの加護を受けているから、世界の管理権を行使する力がある。

 マーテリアの眷属であり魔王であったアンのような感じだ。


 シーラはすでに神の領域に片足を突っ込んでいる。

 いや、シーラだけじゃないだろう。守護隊の全員が同等の神性を有しているに違いない。


「なるほどな。アンの奴でも仕留められないわけだ」


 コッホ城塞ではアンとリリスが守護隊の相手をしたが、決着はつかなかった。

 守護隊の力が凄まじいということの証左だ。


「けど、足りねーよ」


 俺は剣を打ち払い、シーラを軽々と弾き飛ばす。


「そんなもんか? 俺の守護隊の実力は」


 体勢を崩したシーラと視線が合う。その目には本気の戦意が宿っている。

 相手が俺だからといって、微塵も手加減はなさそうだ。


「それでいい」


 俺は追撃を加えるために前進するが、シーラのリカバリーも速かった。


「ご無礼! 『キラー・レティセンシア』!」


 スキルによる見えない斬撃が俺に迫る。

 その全てをモロに喰らってなお、俺の体は当然のように無傷だった。

 これにはシーラも驚いたようだ。エレノアの神性を十全に纏ったスキルなのだから、多少なりともダメージになると思っていたのだろう。


「見誤ったな。シーラ」


 客観的に見て、俺の実力は未知数だ。

 事あるごとに強くなったり弱くなったりしている。力を手に入れては失い、また別の実力をつけてはリセットされる。

 だが、肉体という枷から解き放たれ、本質のみの存在となった俺は、今まで培ったすべての経験や能力を自在に操ることができる。


「この俺にスキルが効くわけがねぇだろ」


 今のシーラと俺の間には、ろうそくの火と太陽ほどの差がある。

 それが厳然たる事実だ。


「もう終わりか。お前達は使命を果たせないまま、半端な結末を迎えることになるぞ」


 シーラに剣を突きつけ、俺は勝利宣言ともとれる発言をした。

 その矢先。


「ご主人様! 危ないっ!」


 サラの声のほぼ同時、真上から敵意を感じた。

 舞い躍るショートヘア。鳶色の瞳。

 守護隊屈指の実力者であるレオンティーナが、俺に向かって急降下攻撃を仕掛けていた。

 彼女が振り下ろしたのは巨大な槌だ。ちょっとした馬車くらいなら一撃で煎餅にでもしてしまいそうなほど重厚で大ぶりなハンマーだった。なおかつ濃厚な神性を帯びている。


 絶大な圧力を目にして、俺はどう対処しようか迷った。

 その逡巡はほんの一瞬に過ぎなかったが、戦いの場においては命取りとなる。

 シーラから意識を離したことによって生まれた刹那の隙。

 そのごく僅かな間に、シーラが剣が俺の心臓を貫いていた。

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