表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
932/1001

影の使命

 ただならぬ雰囲気だ。

 コッホ城塞でもそうだったが、俺達に対する明確な敵意を持っている。


「私はサニーの方に参ります」


 原初の女神が短く呟く。


「ああ。頼む」


 あちらの方が深刻な状況だろう。

 ここは俺とサラでなんとかするさ。

 原初の女神は頷き、その場から姿を消した。


「シーラさん」


 俺の腕から離れたサラが、意外にも強い声を発した。


「どうして……どうして、ご主人様の邪魔をするんですか」


 切実な響きだった。


「あなた達はアルバレスの守護隊。ご主人様の影となり、すべてを捧げるのが使命だと、そう言っていたじゃないですか。何の憂いもなくそう誓った守護隊の皆さんを、尊敬していたのにっ」


 シーラは答えない。

 返事の代わりに、彼女は腰の剣を抜く。


「それが、答えですか」


 サラの小さな拳がぎゅっと締まった。その小さな体に透徹した魔力がみなぎっていく。

 正直、俺はその魔力の強大さに驚いた。以前のサラも人並外れた魔力を有していたが、今は両も質も桁違いだ。ファルトゥールの神性を帯びた魔力を完全に自分の物にしている。


 すごい。

 今のサラならば、シーラを相手にしても十分に勝算はあるだろう。


「サラ。ちょっと待て」


 だが、俺はサラを制止しなければならない。


「ご主人様。ボクのことなら心配ご無用です。誰が相手だろうと、ご主人様のために命をかけて戦う覚悟はできています」


「その意気を疑うわけじゃない。でも、そういうことじゃないんだ」


 サラとシーラは旧知の仲だ。

 サラがヘッケラー機関の実験体だった際に、シーラがよくしてくれたと言っていた。

 それは事実だろう。そしてこの二人が戦うということは、俺のせいで友情をないがしろにするという意味でもある。

 それは看過できないし、そもそも俺はこの状況に疑問を抱いている。


「俺も聞きたい」


 一歩前に出る。


「俺はなシーラ。お前達守護隊が操られていると思ってた。エレノアの力によって自我を奪われ、強制的に従わされているんだと」


 シーラの瞳。その燃えるような紅が、俺をじっと見据えている。


「けど、違うんだな。お前は……お前達守護隊は操られてなんかいない。最初から自分の意思でエレノアについていた」


 シーラの瞳に、わずかばかり揺らぎが表れた。


「知っておられたのですか」


 久しぶりに、シーラの声を聞いた。


「今の今まで気付かなかったが……お前の目を見てすべて理解したさ」


「……では、この後なにが起こるかも、お分かりのはずです」


 剣の切っ先を俺に向け、臨戦態勢を取るシーラ。


「シーラさんっ! やめてください!」


 サラが迷わず俺の前に出た。


「守護隊の皆さんに何があったかのは知らないのです。でも、ご主人様に剣を向けるなんて愚かにもほどがある。それでも守護隊の隊長ですか!」


「サラよせ」


「でもっ」


「いいんだよ。世界がこんなことになっちまった以上、シーラのあの振る舞いこそ俺の影である守護隊のあるべき姿だ」


 困惑するサラを後ろに下がらせ、俺は虚空から剣を抜いた。

 かつて〈妙なる祈り〉によって創造した長剣。懐かしみのある、すべてを切り裂く剣である。


「さぁシーラ。使命を果たせ」


「感謝します。主様」


 それ以上の言葉は不要だった。

 次の瞬間、俺とシーラの剣が閃光を放って激突した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ