予想だにしない出来事
「我々の目的は、女神エレノアの神性を奪い、この裏世界をプログラムし直すこと」
エレノアから神性を奪うってのは聞いていたけど、さらに裏世界を作り直さないといけないのか。
まぁ、そりゃそうか。
このままだと何も変わらないもんな。
「裏世界の再構築は私にお任せを。あなた達は女神エレノアから神性を剥奪することに集中してください」
「わかりやすくていい」
サニーに同感だ。
「ですが、それには問題があるのです」
それまで聞きに徹していたサラがおもむろに声を奏でた。
「問題?」
「はい。ボク達も神性を奪おうと色々試してはみたのですが、どうしてもあの人を見つけられないのです」
「え?」
俺は空を見上げる。
「あそこにいるのは違うのか?」
俺の視線の先には巨大なエレノアの白い顔面がある。
「ご主人様、あれは化身なのです。本体じゃありません」
「本体がどこかに隠れてるってことか?」
「いいえ」
原初の女神が否定した。
「創世の女神エレノアは、その身をもって表世界を形創り、精神をもって裏世界を形成した。要するにここ裏世界は彼女の心の中。この世界そのものが本体なのです」
「まじかよ」
そういうことなら、どうすればいいんだろうな。
裏世界そのものを破壊すればいいのか?
「どこかに裏世界の核となる地点が存在するはずです。そこを探すしかないでしょう」
「核ね。サラはわかるか」
首を振って否定するサラ。
「足を使って探すしかないか。足を使うのが基本ってのは、精神世界でも同じなんだな」
なんとも世知辛いぜ。
「それにしても、この場所もエレノアの記憶から作られたんだよな? あいつグランオーリスに来たことあったのか」
「彼女の記憶については定かではありませんが、あなたの予想は半分当たっていて、外れています」
俺の疑問には、原初の女神が答えてくれた。
「どういうことだ」
「アインアッカ村はその全てが彼女の記憶から作られていました。ところが、先程の街といい、ここといい、他の記憶が混ざっています」
「ボクの記憶、ですね」
「ええ」
サラの記憶?
話が読めんぞ。
「生命の間での会話を憶えていますか?」
「世界樹のか?」
「あの時、エンディオーネから聞いたはずです。〈鍵の八女神〉を安全な場所に封印したと」
「ああ、憶えてる」
「三女神は、〈鍵の八女神〉のうち半分はあなたの中に、そしてもう半分は創世の女神エレノアの中に封じたのです」
「なんだと? そうか、だからサラがこの裏世界にいたのか」
「アインアッカ村から見えた四つの街は、鍵の女神達の記憶が混在しているのです。この街は彼女達を守る殻であり、自由を封じる檻でもある」
原初の女神は物知り顔で語るが、もっと早くその情報を教えてくれてほしかったな。
そんな俺の視線を感じて、原初の女神は言い訳するように唇を尖らせた。
「ここに来てから覚知したことです」
そういうことにしておこう。
「ボク達はエレノアさんの攻撃から守られていましたが、同時にあの人への干渉も思うようにできませんでした。裏世界はそういう状態で安定していたのです。ですから、膠着状態に一石を投じる何かが必要でした」
「それが俺達か」
サラは首肯する。
「ボクがさっき力を行使できたのも、ご主人様達が現れたからなのです」
「この世界にとっての異物ってわけだな。エレノアが排除したがるのも頷ける」
俺は空に静止するエレノアの巨大顔面を仰ぎ、やれやれと額を押さえた。
その時。
「ご主人様! あれを見てください!」
予想だにしない出来事が起こった。




