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この戦いが終わったら

 その前に。


「二人は先に行っておいてくれ。俺達はすこし……寄るところがある」


 俺はリッバンループの街並みを振り返る。


「寄るところ? 精神世界とはいえ、時間は無限じゃないんだ。そんな暇は」


「いえ。少しくらい構わないでしょう」


 サニーの否定を、原初の女神が遮った。

 当然、サニーは困惑したように眉を顰める。


「急げばいいというものでもありません。二人にしてあげてよろしいのでは?」


 淡々と言う原初の女神に、サニーはやれやれと肩をすくめた。


「恩に着る」


 俺はサラの手を握り、リッバンループの通りへと繰り出す。

 街は静寂に包まれていた。エレノアの記憶の残滓だという雑踏も消えてしまった。

 無機質なゴーストタウン。人々が生活していた寂しげな残り香だけが、俺の脳裏をくすぐっていた。


「サラ。憶えてるか?」


 俺はとある店舗の前で、門に掲げられた看板を見上げる。


「はい。ばっちり憶えています」


 その店は、俺とサラが出会った場所。

 リッバンループの奴隷商である。


「とても運命的な、出会いだったのです」


「そうだな……今になって思えば、運命だったのかもな」


 異世界転生してからというもの、運命というものに良い印象はなくなってしまった。

 運命とは神によって補強されたもの。人間の可能性を閉ざすものだったから。


「初めて会った時は、こんなことになるなんて……思いもよらなかった」


「ボクもです。ボクを買った人が、こんな素敵なご主人様だとは、夢にも思っていませんでした」


「はは。そうやって、ずっと励ましてくれてたよな。サラは」


「本心でしたから」


 ふんす、と鼻を鳴らすサラには、やはり年相応の幼さがあった。

 あの時より、俺達はすこしだけ大人になった。いや、すこしどころか、かなり、大幅にかもしれない。

 それでも、決して変わらないものもある。


「俺がここまで来れたのはお前のおかげだ、サラ。お前がいなかったら、胸を張れる自分にもなれなかった」


「そんな……ボクの方こそ。ご主人様が買って下さらなかったら、奴隷としてむごい一生を送っていたはずです」


「ふ。なら、お互い様だな」


「はい。お互い様なのです」


 俺達の間には和やかな笑いがあった。


「なぁサラ」


 ぎゅっと小さな手を握りしめる。


「ありがとな」


 魔法学園で。亜人連邦で。創りかえられた世界で。


「ずっと、俺なんかのことを必死で考えて、戦ってくれた」


 サラはふるふると首を振る。


「それが、ボクの幸せですから」


 本当に、いい女だな。

 俺にはもったいないくらいだ。


「ちゃんと言葉で伝えてなかったかもしれないから、言っておきたい」


 サラの両手を取り、真正面から目を合わせる。


「愛してる。心から、誰よりも」


「ご主人様……」


 俺にとっても一世一代の告白だった。今更かもしれないけど。

 サラは感極まった表情をしていたが、ふとくすりと微笑んだ。


「ようやく、女心がわかってきたみたいですね」


「サラのご指導の賜物だ」


「へへ」


 俺とサラはどちらからともなく触れ合い、そっと唇を重ねた。

 精神体になっても、求めあう心は変わらない。


「ご主人様」


 サラの腕が、俺の背中に回される。


「パンツ、脱いだ方がいいですか?」


 思わず笑ってしまった。

 こういうところも、サラは昔のままだ。


「ああ、そうだな」


 そして改めて、強くサラを抱きしめた。


「俺達の世界に、帰ってからな」


 お楽しみは、大団円の後に取っておくさ。

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