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やっとこ再会なのじゃ

 近づいてくる駆け足の音。

 振り返った俺の胸に飛び込んできたのは、腕を大きく伸ばした獣人の少女。


「サラ……っ!」


 軽やかに抱きとめた俺は、サラの華奢な背中に腕を回し、その細さにびっくりする。


「ご主人様」


「サラ……サラだよな? 本当に」


「忘れちゃいましたか? 長い時間が経っちゃて」


「そんなわけあるかよ」


 忘れるか。忘れるはずがない。

 この感触。

 この香り。


 精神世界であろうと、否、精神世界だからこそ、確かに感じられるサラの存在。

 俺達は互いの肩を抱き合い、じっと見つめ合う。


「サラ」


「ご主人様」


「ずっと会いたかった。こうやって抱きしめてやりたかった」


 幼くもどこか色っぽい微笑み。

 瞳の端に涙を浮かべて、サラは唇を震わせている。


「悪い。随分と待たせちまった」


「本当に……しょうがないご主人様なのです。でも、許してあげます。こうして、来てくれましたから」


 俺達は今一度強く抱きしめ合う。

 もう二度と離れることのないよう。互いを深く確かめ合うように。


「話したいことがあるんだ。たくさん」


「はい。わかっていますご主人様。ぜんぶぜんぶ、わかっているのです」


 流石サラだ。俺のことをよく理解している。

 重なり合う俺達。

 そこに、無粋な咳払いが届いた。


「気持ちは察するが、事態は急を要する。わかっているな?」


 サニーの生真面目な声。


「ご両人。再会を喜ぶのは問題を解決してからでも遅くはないはずです」


 原初の女神も正論をぶちかましてきた。

 俺とサラは名残惜しくも離れ、共に天を見上げる。

 連鎖爆発によって生じた煙が晴れ、再び空が明らかになる。

 そこにはやはり、あまりにも白く巨大なエレノアの顔面があった。


「サラ。あれは……」


「あの人の思念が結晶化したものです。ボクもあんな大きなものを見るのは初めてなのです」


「結晶化……」


 そういえば、いつかダンジョンの奥でエレノアの化身と戦ったことがあった。

 あれも同じようなものだったのだろうか。


「落下が止まっている」


 サニーが眉間を寄せて見上げている。


「あの爆発はサラがやったのか?」


「はい。この空間に漂う記憶の残滓を力にしてぶつけました。あの人に対抗するには、その方法しかありません」


 興味を示したのは原初の女神だった。


「なるほど。記憶の残滓をエネルギーに変換したのですね。精神世界ならではの発想です」


「記憶をエネルギーにって……それって大丈夫なのか?」


 原初の女神は首を振って否定する。


「大丈夫とは言えません。使えば使うほど、記憶を失うでしょうね」


「記憶を……? サラ!」


 俺は思わずサラに向き直り、肩を掴む。


「平気なのか……? 何か、大切な事を忘れたり――」


「だ、大丈夫なのです……ご主人様。記憶を変換するっていっても、ボクの記憶じゃありませんから」


「そうなのか? じゃあ……一体誰の?」


「それは……」


 サラは改めて空を見上げる。

 明らかに、気まずそうに。


「まさか、エレノアの記憶を……?」


「……はい」


 おいおいまじかよ。

 エレノアの記憶を消費して、エレノアを攻撃してるってことかよ。

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