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裏世界

 俺は再び世界に戻ってきた。

 今までと違うのは、肉体を持たず、精神のみの存在だってことだ。


 けど、それでいい。

 エンディオーネの鎌で自分の首を落とした三つ目の理由。それは、ここに来るためだった。


「懐かしみがあるな」


 目の前に広がるのは、我が第二の故郷。

 アインアッカ村だ。


「ちっとも変わらない。俺が旅立ったあの日のままだ」


 エレノアによって創りかえられた世界の景色ではなく、俺が初めてロートス・アルバレスとして生を受けた村そのまま。


「物質の介在しない精神と概念だけの世界。さしずめ……裏世界、といったところでしょうか」


 隣では原初の女神がうそぶく。

 肉体を持たない俺達でも、いや、肉体を持たないからこそ来ることができる世界の裏側。

 ここは物質に囚われず、本質のみが存在する次元だ。


「世界の裏側にアインアッカ村があるなんてな」


「根源粒子によって形作られる表の世界とは違い、ここではすべてにおいて心が反映されます。思考、想い、祈り。憎しみや執念といったものもです。この村は、女神エレノアの意識がそのまま映し出された風景なのでしょう」


「あいつにとって思い出深い場所ってこったな」


 俺達はアインアッカ村に入り、ゆっくりと散策する。

 記憶にある故郷は、行き交う人々や広場で走り回る子ども達がいた。


 だがここには何もない。人の気配はなく、ゴーストタウンの様相を呈している。

 そりゃそうか。ここはエレノアの記憶から作られた精神世界。普通の人間は立ち入れない領域だ。

 ここにいるとすればそれは、俺達のような【君主】か、あるいは神だけだろう。


「ロートス」


 道を歩いていた原初の女神が、ふと立ち止まった。


「どした?」


「あれを」


 彼女が指さしたのは、俺の生家であった。


「何者かの気配がします」


「エレノアか?」


「いえ、彼女ではありません」


「じゃあ誰だ?」


「行ってみましょう」


 俺の実家だぞ。一体誰がいるというのだろう。

 足早に向かい、その扉を開く。


「お前は……」


 家の真ん中にある椅子に座っていたのは、黒いバトルスーツを身に纏ったツンツンした金髪の青年。


「待っていたぞ。ロートス」


「サニー。どうしてお前がここに」


 サニー・ピース。

 前世界で最強の冒険者の称号を欲しいままにしていた、紛うことなき大英雄の一人である。

 まさかこいつがここにいるなんて夢に思わなかった。

 俺の実家だぞ。


「〈妙なる祈り〉の発現者ですか。女神エレノアの再創世を逃れ、裏側に避難していたのですね」


 原初の女神が得心した様子で言う。


「お前が原初の女神か。まさか面を拝めるとは思っていなかったぞ」


 そんなことはどうでもいい。


「サニー。どうしてここにいる? 裏側に避難したってどういうことだ?」


「言葉通りの意味だ。俺はすんでのところで己の肉体を捨て、聖女の再創世に巻き込まれるのを回避したのさ」


「すんでのところで?」


「ああ。頭の中に声が響いた。女神のな。マーテリアか、ファルトゥールか、エンディオーネか、あるいはそこにいる原初の女神かはわからないが。世界が塗り替えられる前に裏側に逃げこめとな」


 サニーは原初の女神を一瞥する。


「どうしてサニーにだけ」


「なにも俺だけじゃない。意志の力……〈妙なる祈り〉というんだったな。それを強く発現し、女神の言葉を信じた者は皆ここに辿り着いた。この場所がヴァルハラだと主張する奴らもいたが、そんなありがたい場所だとは到底思えんな」


 ヴァルハラ。勇敢な戦死を遂げた英雄が招かれる場所だったっけ。要するに戦士用の天国だな。


「今となっては、残っているのは俺だけだが」


 らしくない寂寥感が、サニーの瞳に滲んでいた。

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