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天才的な決断

「俺は、すべてを手に入れる」


 あまりにもイケメン然とした確固たる物言いに、原初の女神は困惑したような表情を見せた。


「すべてを……?」


「ああそうだ。望むものはすべて手に入れる。運命を人の手に取り戻すという使命を達成して、その上で大切な人達とも別れず、さらに神にはならずに人として生きていく」


 二つの選択肢のいいところだけを選別するってわけだ。


「そのようなことは不可能です。相反する未来を両立することはできません」


「それができるのさ」


「無理です。あなたは【君主】ですが、その位階は低い。【座】においては最底辺。全てを叶える力などありません」


「確かに、俺一人じゃ無理だ」


「え……?」


「俺はこれまでなんでも一人でやってこようとしてた。誰かを信じて、頼っているつもりでも、本当に大事な局面では自分の力だけを信用してた。だから失敗続きで、負けまくって、挙句に色んなものを失った。お前が教えてくれたことだぜ。エンディオーネ」


 原初の女神がきゅっと唇を結ぶ。


「俺を助けてくれる人はたくさんいる。みんなで心を一つにし、力を合わせれば、できないことは何もない」


「なるほど。〈尊き者〉と〈八つの鍵〉。そして〈妙なる祈り〉が一つになれば、女神エレノアを打倒することは可能でしょう。しかし、柱を失った世界はどうするのです? 神なき世界はいずれ滅びる。私を含め幾千万の【君主】が見てきた世界の末路です」


「言っただろ。未来を人に託すってよ。世界を支えるのは人だ。神じゃない」


「神なき世界の実現を目指すと?」


「生命の可能性は無限大なんだろ?」


「分の悪い賭けになりますよ」


「わかってる。けど俺には、無理を通す以外の選択肢はない」


 原初の女神は俺の目をじっと見つめる。

 その眼差しには、マーテリアの包容力とファルトゥールの知性、エンディーネの慈愛が宿っていた。


「意志は固いのですね」


「ああ」


「あなたの決断を尊重します。かの世界の未来に、幸のあらんことを」


 原初の女神は微笑みを讃え、光と共に消えゆく。

 俺はすかさずその手をつかみ取った。


「おい。なに他人事みたいに言ってんだ」


「え……?」


「おめーも手伝うんだよ。俺を」


 明らかに困惑する原初の女神。

 なんでだよ。元々てめーが創った世界だろうが。


「世界が独り立ちするまで面倒を見ろよ。それが親の役目ってもんだ」


「親の、役目……」


 精神体となった俺は〈妙なる祈り〉を取り戻していた。

 エレノアが創った肉体という枷から解き放たれ、生命本来の力を発揮できるようになったからだ。


「俺はこれからエレノアと決着をつけに行く。だから、俺の望みが叶うよう、色々と準備を頼むわ」


「……あなたという人は、本当に遠慮がありませんね」


「気に入らないか?」


「いいえ」


 原初の女神は、ニコリと少女のような笑みを浮かべた。


「それでこそ、ロートス・アルバレスです」


 そして俺の視界は光に包まれ、エレノアの世界へと向かう。

 最後の戦いが、始まろうとしていた。

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