定番のやつ
昼休みのうちに班と履修の登録を済ませた俺達は、勇んで午後の授業に出席した。
朝のオリエンテーションと同じ大講義室。この日の科目はすべて一般教養であり、クラス全員で受ける授業である。
転生前、学生だった頃を思い出す。あの頃は勉強はあまり好きではなかった。勉強に何の意味があるのだろうと屁理屈をこねては、自分の成績が悪いことの免罪符にしていた節があった。
だが今の俺は一味ちがう。
異世界で学べるということはそれだけでも価値のあることであり、別に魔法に限らずともモチベーションは高くなるというものだ。
これがいつまで続くかはわからんがな。
三コマ分の授業が終わったところで、間に一コマ空白ができた。長時間の休憩だ。ゆっくり羽を伸ばそう。
「しかしまぁ、なんだ。真面目だな、セレンは」
隣で講義を受けるセレンは、板書を見たり写したり、メモを取ったり、一つ一つの動きに真剣さが滲んでいた。
「あなたもそう」
「いやいや。比べ物にならんね」
初日だから俺だってそれなりにやる気はあるが、さすがに彼女ほどではない。
「勉強、好きなのか?」
「べつに」
「だったらなおさら真面目だよ」
「目標があるから」
セレンの表情は相変わらず無だが、翡翠の瞳にはなんとなく強い意志のようなものを感じた。
「だから、頑張る」
目は口ほどにものを言うというが、まさにその通りだ。顔に出なくとも、心は目に表れる。
「ほぉ」
俺は思わず感嘆の息を漏らす。掛け値なしに、あっぱれじゃ。
「なるほどなぁ」
結局のところ、勉強の意味はその内容ではなく、勉学に取り組もうとする自分自身の中にこそ存在するのだろう。
何のために、という目的観が全てを決定づけるのだ。
そのことにもっと早く気付いていれば、転生前の学生生活ももっと実りのあるものになっていたかもしれない。
いまさら悔やんでも遅いか。この人生で一から学び直さねぇとな。
「ちなみにその目標ってのは?」
質問の直後、セレンの目がほんの少し泳いだ。
ありゃ、聞いちゃいけないやつだったか?
「きっと笑う」
「ええ? なんでだよ。人の夢を笑ったりしないって」
セレンはしばらく口を閉じた。講義室の喧騒が聞こえてくる。
「S級冒険者」
おもむろに返答するセレン。
その称号は、この世界で最も優秀な冒険者達に与えられる、冒険者最高の栄誉である。
「S級か……」
俺は田舎の出だから、冒険者に関してはさほど詳しくないが、S級冒険者になることがどれくらい困難な事かはなんとなく理解できる。
転生前の世界に当てはめるなら、ノーベル賞を受賞するくらいの難易度だろう。
なかなかにハードルの高い目標だ。




