表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
909/1001

鍵の力

 アカネ。

 ルーチェ。

 アイリス。

 アデライト先生。


 あの四人の姿を、また見ることができるなんて。

 視界がぼやけているのは、命が尽きようとしているからか。

 あるいは涙のせいなのか。


 俺の肉体は役目を終えた。白と黒と琥珀色の、三色の粒子と化して虚空へと溶けていく。

 不可視の精神体となった俺の意識だけが、この場に滞留していた。

 それなのに振り返った四人は、まるで見えているかのような眼差しを俺に向けている。


「ロートスさん。よく頑張りましたね」


「ずっと見てた。かっこよかったよ」


「流石はわたくしのマスターですわ」


「あとはわらわ達に任せい。ちっとだけ休ませてやるのじゃ。おぬしの仕事はまだ終わっていないのじゃからな」


 みんな。

 もし俺にまだ肉体があったとしたら、溢れんばかりの涙が流れていることだろう。


 感無量という言葉でも足りない。

 胸の奥底から、無限の喜びと感謝の念が湧き上がってくるんだ。


(ククク……)


 俺達の再会に水を差す、ふざけた笑声が一つ。


(何を呼び出すかと思えば……どうやらキミには、お笑いのセンスがあるようだね)


 その声は確かに笑っていたが、同時に怒りにも似た感情を孕んでいた。


(僕は本気でキミと戦っている。全力で世界に挑んでいるっていうのに……まさかここまでコケにされるとはさぁ)


 一際強く【ゾハル】が輝き始める。

 奴は怒っている。

 俺が恋人達を呼び出したことに対して、戯れであると断じたらしい。

 残念ながらそいつは勘違いだ。


「ほう? 言うようになったものじゃ。ピストーレんちの坊やが」


 一歩踏み出し、拳を叩くアカネ。


(生憎、僕の『ホイール・オブ・フォーチュン』は完璧だ。【座】に至ったことでさらに盤石なものとなった。極めつけには、【ゾハル】の根源粒子は高位次元から持ち出している。神性も持たないキミ達は僕に触れることさえできないだろうね)


「では、試してみましょう」


 言った時には、アイリスが【ゾハル】をぶっ叩いていた。

 凄まじい衝撃音が轟き、閃光が迸る。

 大きく弾かれたアイリスは、もといた場所に軽快に着地した。

 【ゾハル】にダメージはない。というより、攻撃が届いていない。


 なんだあれは。何かの障壁に守られているのか。まるで見えない壁。

 俺とサラを隔てていた壁と同じだ。


「世界の境界ですか」


 アデライト先生が呟く。


「妙な手応えですわ。先生、あれは一体?」


「要するに完全無欠のバリアです。外からの干渉は遮断し、内からは好きなだけ攻撃できる。【ゾハル】と『ホイール・オブ・フォーチュン』が矛盾する理を実現しているのです」


「インチキにもほどがあるのぅ」


 アカネに同感だ。

 だけど俺は信じている。この四人ならこの状況を打破できると。


「時間は限られておる。この城塞も長くは持たんじゃろう。ルーチェ!」


「お任せください」


 ヘアゴムを咥え、後ろ手にポーニーテルを結いあげるルーチェが、淡々と【ゾハル】に歩み寄っていく。


(ふん。〈八つの鍵〉か……。つまらない存在だ。消えてもらう)


 【ゾハル】の周囲に無数の歯車が顕現する。それらはマシンガンのような怒涛の連射で、容赦なくルーチェに襲いかかった。


「つまらない存在?」


 ポニーテールを結い終えたルーチェが、飛来する歯車に手を向ける。


「謙虚な自己紹介だね」


 連続する甲高い衝突音。

 ルーチェの展開した魔法障壁が、すべての歯車を防ぎ切っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ