良い半裸
マシなんとか五世の頭部に、刃の切っ先が抉りこむ。
頭部を潰されて生きていられる人間はいない。マシなんとか五世の肉体は、その後二度と動くことはなかった。
「くそっ」
清々しい気分というわけにはいかない。
のっぺら少女がいなくなってしまったことは事実だ。感謝の言葉一つ伝えられなかった。
だが時の流れは、感傷に耽る暇さえ与えてくれない。
だしぬけに、『臨天の間』が大きく揺れ始めた。
「なんだ……?」
いや、ここだけじゃない。
コッホ城塞全体が、とてつもない振動に襲われている。
「そうか。時間の流れが戻ったのか」
極めてゆっくりと崩壊していた城塞だが、のっぺら少女が死んだことによって時間の速度が正常化しつつある。
「まずい」
このままじゃ崩落に巻き込まれる。脱出しなければ。
急いで引き返そうとするも、ダメージを負った身体は満足に動かない。
瓦礫に躓き、無様にも膝をついてしまう。
「主!」
頭上から声。
浮遊してやってきたアンが俺の傍に着地する。
「ご無事ですか?」
「なんとかな。動けねぇけど」
「この城塞はもう持ちません。世界樹に戻りましょう」
アンが医療魔法をかけてくれるが、俺の傷やダメージは一向に快復しない。
「そんな……なぜ?」
「魔法じゃ治らねぇか。『ホイール・オブ・フォーチュン』の効果だな」
全身の痛みを和らげるために大きく深呼吸をする。
「シーラ達は?」
「撤退しました。城塞の崩落を悟ったのでしょう。こちらは……リリスを失いました」
「そうか」
決着はつかなかったってことだな。
「失礼いたします」
アンが俺の肩を担ぎ、立ち上がらせてくれる。
「悪いな」
「何を仰います。主のお役に立てること、恐悦至極に存じます」
「はは。そりゃよかった」
正直なところ、アンがここまで尽くしてくれるとは思っていなかった。
すこし前まで、お互いに不倶戴天の敵だったのに。
戦闘のせいか、アンのドレスは見るも無残な状態になっていた。ボロボロに破れたドレスは、アンのしなやかな太ももや、控えめなおっぱいを露わにしている。
こんな時だというのに、いや、こんな時だからこそ俺のムスコは圧倒的なまでの活力を取り戻していた。
マジでありがとう。
胸中でアンに感謝しつつ、脱出すべく脚を動かす。
そんな俺の胸元から、一枚の鋭い歯車が飛び出てきた。
背中を切り裂き、胸部をぶち破ったのだと瞬時に理解したが、何故そんなことが起こりうるのかまでは頭が回らなかった。
泣きっ面に蜂だ。
ほとんどとどめの一撃を喰らい、俺はアン共々その場に倒れ込んだ。




