成り上がりの極致
「お前は【座】に至った。望んでいた境地に達したんじゃないのか? それなのに、わざわざ地上に下りてきやがって。エレノアに身体まで用意させてな。【座】に至って満足したんじゃなかったのかよ」
「満足していたよ」
マシなんとか五世は、近くの瓦礫の上に腰を下ろす。
追撃すればいいもんを、やけに余裕ぶった態度だ。
「【座】に辿り着いた僕の興味は一つだった。プロジェクト・アルバレスの結末がどこに行きつくのか。キミとエレノアちゃんの戦いをずっと観察していた」
「変態が」
「はは。親心と言ってくれ」
屈託なく笑いやがって。
「でもね、そんな親心も長くは続かなかったよ。キミ達があまりにも……眩しかったせいかな」
無邪気な笑みに、陰が落ちる。
「二人とも輝いていた。キラキラと、眩い生命の光を放っていた。それを見ていると、理の外にある【座】が虚しく思えてきてね。そう……欲が出てきたんだ。もう一度戦いたいと」
自分語りを引き出しつつ、俺は回復に努める。さっきの掌底がまだ効いてやがる。反撃に移るまであと数十秒は欲しい。
「こう見えて僕、若い頃は苦労人だったんだよ? 生まれた時から不満と艱難の連続だ。そんな少年時代を過ごした男の価値観はどうなるか。贅沢と恵まれた環境こそが人を幸福にするのだと、当時は本気で思っていたよ」
白けた笑みで頬杖をつく姿は、どう見ても戦闘中とは思えない。
「裕福な家庭。よくできた親。才能に恵まれ、苦労も不自由もなく、たくさんの選択肢があり、目立った挫折もなく薔薇色の人生を送る。あと、そうだ。美しい妻を娶り、聡明な子どもの成長を見守ったりね。思い描く理想の人生航路だと思わないかい?」
「そんな話をするってことは、今のてめぇはそう思ってねぇってことか?」
「……ああ、思っていない。僕は理不尽な運命を変えるためにヘッケラー機関に入った。そこからは死に物狂いだったさ。長い年月を費やし、人生のすべてを賭けて研究に没頭した。研究に殉ずる覚悟と情熱があった。そうやってついに手に入れたんだ。運命を思い通りにする力を」
「『ホイール・オブ・フォーチュン』」
「この力は神にも匹敵する力だ。なんでも思い通りにできる。望みはなんでも叶った。地位も名誉も財産も、人望さえ思うがまま」
そう言うマシなんとか五世の声調は落ち込んでいる。
「途端に生きる意欲が失せたよ。自分の思い通りになる人生ほどつまらないものはない。人生はままならないから面白い。すべてを手に入れてようやく気が付いた」
「けだし名言だな。聞く人によっちゃ怒り狂いそうだ」
「気持ちはわかる。僕だってそっち側の人間だった。他責主義のロクデナシってやつさ」
足元の小石を拾い、指先で転がすマシなんとか五世。
「今になって思えば、人生を変えようと必死に戦っている時が一番心地よかった。幸せっていうのはゴールじゃない。大きな目的に向かって全力でもがき苦しみながら、一歩一歩進み続ける道の名前なのさ」
細い指先が小石を砕き割る。そして、マシなんとか五世はゆっくりと立ち上がった。
「さぁ、そろそろ回復したかな?」
「……おかげさまでな」
今まさに攻撃に移ろうしていた俺は、出鼻をくじかれて舌打ちを漏らす。
「最後に教えておくよ。今の僕が掲げる大目的を」
マシなんとか五世は大きく腕を広げ、背に巨大な歯車を顕現させた。




