丸出し
色とりどりの魔法が重なり合い、虹のような彩りを為している。盾代わりにした剣が、見る見るうちに削れ、溶け散り、崩れ去っていく。
守護隊の魔法はエレノアの神性を帯びているため、あらゆる物質を破壊する力を有している。
だが俺には、アデライト先生がくれた『無限の魔力』がある。
アイリスのおかげで得た尋常ならざる肉体がある。
前へ。
さらに前へ。
「うおおおおお!」
果たして俺は、殺意の帳を破ってシーラの眼前へと肉薄した。
「シーラッ――!」
視線が交錯する。
生気のない無色の瞳。対する俺の眼力は燃え滾る決意を秘めている。
「目を覚ませ!」
俺は朽ちた剣を放り捨て、拳を握りこんで渾身のパンチを放つ。
手加減はなしだ。シーラはこれくらいでどうにかなるタマじゃない。
そう信じて、放った一撃だった。
だが、数人の守護隊が各々の武器をもって俺の拳を防いだ。
凄まじい衝撃と音響が爆ぜる。
支援防御に入った面々が吹き飛び、同時に武器も砕け散っていくのを確認しながら、俺はシーラの目の前で無防備な姿を晒していることを危惧する。
まずい。
「『キラー・レティセンシア』」
シーラがスキルを口にする。
俺の脳裏には、かつての戦いの光景が蘇っていた。
親コルト派による王都襲撃の際、シーラが死天衆の一人と戦った時のことだ。あの時、シーラのスキルによって敵の腕がズタズタに斬り刻まれていた。
その記憶が、目の前の視界と重なる。
俺は咄嗟に飛び退こうとした。『タイムルーザー』を使えば一瞬にして離脱できる。
だが。
使えない。
コッホ城塞内部は時空の歪んだ空間だ。そんな環境では『タイムルーザー』は正常に作用しない。確認を怠った俺のミスだ。
瞬く間に、俺の腕は細切れになった。
二の腕から先が、まるでシュレッダーにでもかけられたかのようにバラバラに切り裂かれた。痛みも出血もなく、右腕を失った。
だが、それ以上の被害は食い止められていた。
アンが放った漆黒の弾丸が、シーラに襲いかかったおかげだ。
「うおおぉっ!」
飛び退いていた俺は、腕を失ったことでバランスを崩し転倒する。
そこに追撃を加える奴がいた。色褪せた鳶色の瞳。レオンティーナだ。
「ちくしょっ!」
俺は悪態を吐きつつ、ごろごろと転がって加速する。
一秒前に俺がいた地面に、鋭い剣が突き刺さった。
更なる追撃を阻止すべく、リリスのレーザーが飛来したが、レオンティーナは大きくバックステップを踏むことで回避。
俺はアンの隣に戻り、再び守護隊と対峙する。
「やっぱつえーな。あいつらは」
「ですが、数名は戦闘不能になりました」
さっきのパンチが効いたみたいだな。シーラを守るために防御した奴らは、すでに立ち上がれないほどのダメージを受けたようだ。
アンが感心して言う。
「恐るべくは主の気迫です。彼女達も、迂闊に手出しできないでしょう」
「どうかな。あいつらに怖いっていう感情が残ってたらいいけど」
なにせ、主である俺に剣を向けるくらいだ。表情からして、人らしい感情はなさそうに見える。
「気を取り直していきましょう。向こうはたかが十人です」
「数だけ見りゃ不利だな」
「問題ありません。後はあーしとリリスがやりましょう。主は見物なさってください」
「なんだと?」
アンは自信ありげな笑みでゆったりと前進する。
「リリス。殲滅なさい」
アンの静かな号令がこだました。
次の瞬間、リリスの着ている服がビリビリに破れて四散した。
リリスは、全裸となった。




