前進あるのみ
アナベル達を帰した後、俺とアンはリリスの先導で進行を再開した。
今のところ瓦礫の飛来はない。
「ほんと、なんだったんだ」
「先程の攻撃ですか?」
「ああ。明らかに俺達を狙ったものだっただろ」
「ですね。ご令嬢が殺気を感じ取っておられたので、意思を持つ者の仕業でしょう。侵入者を無差別に攻撃しているのか、それとも我々だからなのか」
「進めばわかるか」
ふよふよと低空飛行するリリスの背中を追い、俺達はついに『臨天の間』がある塔の足元に辿り着こうとしていた。
「ここまで何事もなく来れたな」
「いえ……出迎えがあるようです」
長い階段を上りきった先、塔の入口に立ち並ぶ十数人の人影。
純白のローブを纏い、フードを目深にかぶり、整然と横列を為している。
「こんなところに人? 妙ですね」
「いや……」
あいつらならここにいてもおかしくはない。
なにせ、元々はヘッケラー機関の構成員だからな。
「アルバレスの守護隊。全員集合だな」
再会を喜びたいところだが、そうもいかない。
明らかに異様な雰囲気。
否、明確な敵意を感じるからだ。
「我が主を前に頭も垂れぬとは無礼な」
アンが怒気を纏い、漆黒の爆裂魔法を放つ。
その黒球は守護隊の中央で炸裂し、半端ない爆発を引き起こすが、何重もの魔法障壁によって防がれてしまう。
「あーしの超光黒陽霊を防ぐとは……主、侮れませんよ」
相変わらずのセンスだ。
今の爆発で、中央の人物のフードが外れていた。
隊長のシーラ。
妖精のような陶磁器の白い肌。凛とした様相は健在である。
しかしその目に生気はない。燃えるような紅の瞳は、いまや色を失っている。
他の隊員も同じだろう。完全に洗脳されているようだ。
「なるほど。あの者達からは強い神性を感じます。聖女の差し金ですか」
「あいつらは前の世界でエレノアの神性を浴びちまってる。一度は俺を思い出したけど、あの様子じゃエレノアに何かされたようだな」
可哀想に。
まぁ、本来アルバレスの御子はエレノアだったんだ。エンディオーネの策謀によって俺がその座を奪っただけ。あいつらがエレノアを守るのは別段おかしなことじゃない。
そう思い込まなきゃ、やってられないぜ。
「主。来ます」
「気が進まねぇが……やるしかないか」
腰の剣に手をかける。
「主。相手方には殺意があります。手心など加えられぬよう」
「忠言痛み入るわ」
俺は払拭しきれない逡巡を断ち切るように、力強く一歩で跳躍した。
単独で飛び出した俺に、魔法の集中砲火が襲いかかる。
それはまさに壁のような怒涛の攻撃だった。回避する隙間はない。後退も間に合わない。
だったら。
「突き抜けるしかねぇっ!」
俺は剣の切っ先を前に、一際強く前進した。




