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テンポ

「この娘達から話は聞いているでやんす。すぐにでも聖域に案内できるでやんすが、どうでやんす?」


 オーサが族長然とした振る舞いで俺に問う。

 話が早くて助かる。アナベル達が上手いこと伝えてくれていたようだ。


「いいのか? 人間の俺が世界樹に触れても」


「それを決めるのはあっしらじゃなく、世界樹でやんすよ」


 なるほど。

 話を聞いていたフィードリッドがふっと笑った。


「婿殿。エルフは外の者が思っているほど他種族嫌いではないぞ」


「ああ。そうだな」


「それに婿殿は〝ユグドラシル〟の一員だ。世界樹に触れる資格は大いにあるさ」


 そういうことなら、ありがたく触れさせてもらおうか。


「わかった。時間が惜しいから、すぐにでも世界樹に向かおう」


「了解でやんすよ。皆も、それでよいでやんすな」


 オーサが確認したところ、難色を示す者は一人としていなかった。

 副長あたりが異論を吐きそうなイメージだったが、そんなこともないようだ。


「じゃあ、行くでやんす」


「すまんな。到着した矢先に」


「なに。これもあっしらの役割でやんすよ」


 よし。

 ようやく世界樹に行ける。

 『ユグドラシル・レコード』から何を得られるかは分からない。

 だが、やってみる価値はあるはずだ。

 コッホ城塞の情報が得られたら、万々歳なんだが。


 オーサの案内で歩き始めると、アナベルとアンは俺の後ろについた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 ところが、スムーズだった流れを制する者が一人。

 もちろん、状況を理解できていないイキールだ。


「なにがなんだか……さっぱりわからないわ……! ちゃんと説明してっ」


 この反応は想定内だった。


「あなたが〝ユグドラシル〟って、なにそれ? 意味わかんない。エルフに誘拐されたんじゃなかったの? それなのに――」


「イキール」


 振り向いた俺は、語気を強くする。


「言ったはずだぞ。覚悟がいると」


 神をも凌駕する圧倒的までの静かなる覇気に気圧され、イキールはうっと怯んだ。

 額に脂汗が浮き、歯がカチカチと鳴り、膝が笑い始める。イキールは今、体験したことのない重圧の中にいることだろう。


 これは試練だ。こいつが、この先ついてこれるかどうかの。

 俺がイキールを試すなんて、おこがましいことではあるんだけどな。


「そ、そんなの……説明しない理由にはならないでしょ……っ!」


「一緒に来ればわかるとも言った。ここから先は俺の言葉じゃなく、お前自身の目で確かめろ」


「私自身の、目で……」


「そうだ。それが一番いい」


 なぜなら、説明するのが面倒くさいからだ。

 だから話はここまで。俺は再び歩き出す。


 イキール以外の女達は、迷いのない歩を進めている。

 ついてくるか否か。あいつ次第だろう。

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