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千載一遇の再会

「なぁイキール。マザードラゴンって……なんだ?」


「えぇっ? あなた、知らないの? マザードラゴンを?」


 そんなに驚かなくても。


「マザードラゴンは、民話に語られる伝説上の存在よ。といっても、今私達の目の前にいるけれど」


「伝説……」


 それがどんな内容なのか非常に気になるが、残念ながら暢気に聞いている暇はないようだ。

 マザードラゴンの余りにも巨大な口が、ゆっくりと開かれる。


「おいおい」


「食べるつもり……? 私達を」


 大空を含んだような丸い瞳が、俺とイキールを映している。

 迫りくる顎。

 俺達は抗う術もなく、ドラゴンの口に呑み込まれてしまう。


 だが、不思議と危機感は覚えなかった。

 捕食されたというよりは、抱擁された感覚に近い。

 そしてその証拠に、俺達はドラゴンの胃袋ではなく、果てが見えないほどの真っ白い空間に立っていた。


「え……?」


 当然、イキールは困惑する。


「ここは」


 見覚えがある。

 セーフダンジョン『クロニクル』の変貌した姿もこんな時だった。

 エレノアの化身と戦った時だ。記憶に新しい。

 俺は足場が確かなことを確認すると、イキールをその場に下ろし、自分の足で立たせる。


「どういうこと? ここは、どこなの?」


「単純な腹の中ってわけじゃ、ないんだろうな」


 何が出てくるか分からない。俺は警戒心を強める。

 それゆえ、ここで何が出てこようと決して驚くつもりはなかったが、実際に目の前に現れた奴を見て、俺はかなり意表をつかれた。


 虚空から生まれた光の粒が、無数に飛び散り、舞うようにして集まる。

 それは次第に人型の輪郭を形成し、やがて少女の姿になった。


「……あ」


 声を出そうとして、失敗した。

 現れた少女を、俺はよく知っていた。


 腰まで伸びた、癖のある赤茶色の髪。それを飾るようなふわふわのネコミミ。

 凛々しさを讃えたくりっとした大きな目。意外に力のあるまなざし。

 漆黒のローブに、真紅のストールを垂らした立ち姿は、紛れもなく可憐でありながら、荘厳なる存在感を放っている。


「サラ」


 かろうじて呼べた名前。

 衝動のままに駆け寄ろうとするが、見えない壁のようなものに阻まれ、先に進めない。

 サラは、何かをぐっと堪えるような表情で、俺をじっと見つめている。


 どうしてサラがこんなところに。

 ここは一体何なんだ。

 マザードラゴンの口は、どこに繋がっていたというんだ。


「サラ!」


 名を叫ぶ。

 サラは、やはり何かを堪えるように、一歩一歩俺のもとに歩み寄る。

 見えない壁を隔てて、手の届く距離にいる。

 俺の手と、サラの手が、壁越しに触れた。


 ご主人様。

 サラの唇が動く。


「サラ……!」


 くそが。

 なんなんだよこの壁は。

 邪魔すぎる。

 宇宙一邪魔な存在だ。


「ねぇ公子……この子、なにか言ってるわ」


 イキールの声で、俺はわずかに冷静さを取り戻す。

 サラからのメッセージを逃すまいと、唇の動きを凝視する。

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