表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
871/1001

そりゃ庇うやろ

 漆黒の谷。

 深い森と山々に囲まれ、日光はほぼ届かない。

 微かな木漏れ日が差し込んでいるにも拘らず、この場所は深夜の如き闇の中にあった。


 俺が目を覚ましたのは、そんな場所だ。

 落下してからどれくらい経っただろうか。俺は気を失いこそしなかったものの、落下の衝撃で負傷し、動けずにいた。

 今の俺の肉体は、それほど頑丈ではない。

 イキールを庇って下敷きになったこともあり、重傷を負っている。

 そのイキールは、俺の上で気絶していた。息があるのが不幸中の幸いか。


「う……ううん……」


 イキールが苦しそうに呻く。

 どうやら目を覚ましたようだ。


「……ん」


 俺の胸に顔を乗っけたまま、身じろぎするイキール。


「ここって……ここは……ああっ!」


 うわ言のように呟き、だしぬけに体を起こす。


「いたっ……!」


 急に動いたせいで激痛を感じたのか、イキールは眉を寄せて右の二の腕を押さえた。


「大丈夫か? 腕が変な方向に曲がってるぞ」


 俺の言葉通り、イキールの右腕は、人体の構造的にありえない角度を描いていた。


「公子。私達、どうなったの」


「落ちたんだよ。ドラゴンの背からな」


 イキールは頭上を見上げるも、そこには分厚い木々しか見えない。


「木の枝がいい感じにクッションになったみたいだな。死んでもおかしくなかった。大いなる自然に感謝だな」


「そんなこと言ってる場合? どうするのよ……これ」


 土の地べたに座り込んだイキールは、周囲を見渡して途方に暮れている。

 俺は懐から念話灯を取り出す。幸い、破損はしていないようだ。

 だが。


「信号は……ないな」


「救助は期待できないってことね」


 こんな状況なのに溜息すら麗しいんだから、イキールは本物の美少女だな。


「それにしても」


 イキールは負傷した腕を気遣いつつ、ゆっくりと立ち上がる。


「本当。森しかないわね」


「たしかに」


「ねぇ。いつまで寝てるの」


 ミニスカートから伸びるイキールの白い脚を眺めていると、咎められてしまう。


「動けないんだ」


「うそでしょ?」


「マジ。医療魔法をかけてるからちょっと待ってくれい」


「もう」


 傍に膝をつき、俺の胸に手を当てるイキール。


「シースルー・コンディション」


 青い瞳が光を帯びる。魔法で俺の容体を確認するつもりのようだ。


「え……なにこれ……っ!」


 瞠目。


「どうしてこんな状態で、平気な顔してられるのよ……!」


「大袈裟だな」


「大袈裟じゃないわよっ。生きてるのが不思議なくらいよ!」


 実際、俺のダメージは深刻だった。おそらく背骨も含め全身の骨が損傷しているし、心臓と肺以外の臓器はのきなみ破裂しているはずだ。

 一見けが人じゃなさそうだが、瀕死には違いない。常人なら痛みだけでショック死しているだろう。


「あの高さから落ちたんだ。生きてるだけで儲けモンだ」


「あなた……もしかして」


 そこまで言って、イキールは口を噤んだ。

 理解したのだろう。

 自分が腕の骨折だけで済んだのは、俺が落下の衝撃をすべて肩代わりしたということを。

 イキールは唇を噛み、じっと俺の顔を見つめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ