次から話が進みそう
一夜明けて、朝。
俺は徹夜明けの体を労わるために、自室で朝食を取ることにした。
シエラがカートを押して部屋に入ってくると、「まぁ」と驚いて口元を押さえた。
「坊ちゃま……」
この反応は予想できた。
なぜならソファに座る俺の隣には、俺の腕を抱きしめてべったりくっついているアンがいるからだ。
「隅に置けませんね」
それだけ残して、シエラはぱたぱたと足早に部屋を出ていった。
こりゃあ家中に噂が広まるのも時間の問題だな。
「おいアン。いい加減離れろよ」
「いやです。あーしのことをあんな風にめちゃくちゃにしておいて、いまさらポイって捨てるつもりですか。そんなの許しません」
「知らねーよ。嬲られて惚れる女の気持ちなんてよ」
どうやらロートス・アルバレス式拷問が、このドM魔王の琴線に触れたらしく、すごい勢いで懐かれてしまったのだ。
「あーしの身も心も、もはやあなたのものです。あーしは、まことの意味であーしの神を見つけたのです」
「おいやめろ。マーテリアはどうすんだよ」
「あんなクソビッチどうでもいいです」
「手のひらクルックルだな」
朝食も食べづらいし、まじで邪魔だ。
とはいえ、今の俺にすごい力で抱き着いてくるアンを振り払う気力はなかった。
四苦八苦しながら朝食を食べ進めていくと、今度はアナベルがノックもなしに部屋に入ってくる。
押してきたカートには、二人分の朝食があった。
「シエラさんから、ここにそいつがいるって聞いたんだけど……なにそれ」
「俺にもさっぱりわからん」
いや、わかるけど、わかりたくないというか。
「一応パパには婚約者がいることになってるし、そいつは表向きグランブレイドの王女なんだから、そのままじゃ面倒なことになるわよ?」
「わかっちゃいるけどな」
「あ、じゃああーし王女やめます」
「は?」
「え?」
俺とアナベルはほぼ同時に素っ頓狂な声を出してしまう。
「最初からサーデュークに頼まれて王女していただけですし。主の傍にいるのに王女の肩書が妨げになるのなら、今すぐ替え玉王女はやめます」
「やめますってお前。そんな簡単に」
「ううん。その方がいいかも」
意外にも賛成したのはアナベルだった。
「そいつは今回のテロで顔が割れてる。グランブレイドとの国交を断絶させないためにも、そいつが王女だったなんて事実は捨てた方がいいんじゃない?」
「たしかに」
幸い、王女の顔は隠されたままだった。アンの存在は闇に葬られるべきだろう。
「それに、アンは手元に置いておいた方が都合がいいかな」
「はい。あーしは何があってもお傍を離れません。あーしは主の忠実なる下僕ですから」
「そういうことじゃないんだよなぁ」
アンは前世界の記憶を引き継いだ貴重な人材だ。アナベルや俺と同じくな。
だから、三人が一緒にいる方が絶対にいいだろう。
前世界を取り戻すためにもな。
「まぁ、グランブレイドの方はコーネリアに任せるとして、だ」
それより重要なことがある。
「アン。お前の知ってることを全部話せ」
俺は言いながら、服の上からアンの乳首をつまんだ。
「んっ……はい、仰せのままに」
頬を紅潮させるアンは、最早ただのメスであった。




