ここから始まるトーチャー
邸宅に帰った俺を追うようにして帰宅したのは、なんとアナベルだった。
「パパ!」
後ろから走ってきたアナベルに振り返る。俺が担いでいるアンを見てビックリしたのは言うまでもない。
「あ、そいつ。捕まえたの?」
「ああ。性懲りもなく暴れようとしてたからな」
コンパクトなお尻を叩くと、アンは色っぽい声で鳴いた。
「ごめんパパ。そいつが出ていくの止められなかった」
「いいさ。腐っても魔王だ。アンがその気になれば誰にも止められない。大人しくしてるだろうと思い込んだ俺のミスだ」
世界が変わってまでマーテリアの復活を望んでるとは思ってもみなかったしな。
俺の想像力のなさを悔やむばかりだ。
「それよりお前が無事でよかった。街はモンスターだらけだっただろ」
「あれくらいなら楽勝よ。あたしにはスキルもあるし……あ、そうだ。外であの人を見たわよ。ガウマン侯爵令嬢」
「イキールを?」
「うん。モンスターを倒しながら、住民の避難に奔走してた」
「そうか」
ちゃんと頑張ってたか。やるじゃないかイキール。
今度会った時は誉めてやろう。
「アナベル。俺はこれから地下牢でこいつを拷問する。本物のコーネリア王女が帰ってきたら、グランブレイドの大臣達に上手く言うよう伝えてくれ」
「え? どういうこと?」
「この魔王はコーネリア王女を騙ってたんだ。本物は一緒にいた女騎士だ」
アナベルはすこしだけ思案するように首を傾げ、
「そういうことね」
すぐに得心した。
「そういうわけだから、しばらく家のことは任せる」
「うん。わかった」
「頼んだぞ」
俺はアンを担ぎ地下室に向かおうとする。
「そういえば、秘匿魔法を使っているのに、よく俺に気付けたな」
「魔法は得意なの。特に姿や気配を隠すような魔法を見破るのはね。いろんな人に教えてもらったから」
「ふーん。まぁ、未来じゃ魔法も発達してておかしくないか」
「そういうこと」
疑問も解消したところで、俺は改めて地下室へと向かう。
「あの……ロートス・アルバレス」
「なんだ?」
アンが話しかけてくる。
「拷問って、何をするんですか……?」
「心配しなくても知ってることを吐けば酷いことにはならないさ」
「言わなかったら?」
「そりゃやばいことになるな」
「例えば、どういう?」
「お前さぁ……前世界でのことを思い出せば、なんとなく想像つくだろ」
アンはそれ以上何も言わなかった。
ただ唇を引き結び、俯くだけ。
ちょっと息が荒いのは恐怖しているからではない。
その息遣いには、明確な興奮の熱気があったからだ。




