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実は最強

 待っていたのは、惨状だった。

 集結したデメテルの最精鋭達は、数人を残して全滅。

 そびえ立つ大樹のごときモンスターは、漆黒の瘴気を纏い、絶望的なまでの威容を示している。


「ひどい……!」


 コーネリアの感想も頷ける。

 美しかった大公園は見るも無残に破壊の限りを尽くされ、戦士達が骸を晒している。死屍累々とはまさにこのことだ。

 残っているのはー―。


「な……なんだこのバケモノは……!」


 大男エルゲンバッハ。片腕を失っている。


「元々えげつなかったが、あの黒い靄を纏ってから一層やばくなったのぅ」


 チェチェン老は息を荒げ、ふらふらしている。


「あかん。こないな奴、どないせぇっちゅーねん……!」


 オー・ルージュも、折れた槍を握って顔を青くしている。

 この三人を含め、残りは七人といったところか。

 いや、あのモンスターを相手によく持ちこたえたもんだ。


『フフ。この世界の人間は脆弱ですね。歯ごたえがまったくない』


 アンの声だ。

 奴はモンスターの頂上に咲く巨大なバラに立ち、彼らを見下ろしている。


『やはりもっと早く動くべきでしたね。この世界には我が女神マーテリアの障害となるモノはない』


 アンの目的は一貫してるな。

 マーテリアの復活。どこまでも、マーテリアの世界になることを望んでいる。


 だが、そうはいくか。

 俺は馬を走らせ、大公園へと突入した。

 白馬の嘶きが、戦場に木霊す。


「な、なんやっ」


 奇しくも近くにいたルージュが、俺の登場に一番に気付いた。


「あんた……アルバレスの……!」


「苦戦してるみたいだな。手を貸そう」


 俺はコーネリアと馬を降りると、モンスターへと歩みを進める。


「なっ、ちょい待ちぃや! いくらあんたでも、あのバケモンには敵わへんて!」


「けが人は黙って見てな」


「頭おかしいんかいな……!」


 悠々と歩みを進める俺に、ルージュはとても失礼な言葉を浴びせる。

 まぁ、戦場の空気に当てられたら誰だって口が悪くなるもんだ。


「あ、あんな……剣も抜かずに間合いに入るなんて、自殺行為だぞ!」


 エルゲンバッハの忠告なんかどうでもいい。

 俺はのんびりとした歩調で、植物モンスターの射程内に一歩踏み込んだ。


 その刹那。

 無数の太いツルが、うねりながら俺に迫る。

 その場にいる誰もが、俺の死を予感――否、確信――したことだろう。


 だが、数えるのも億劫になるほどのツタは、ただ一つさえ俺に触れることはできなかった。

 俺の放った神速の斬撃が、ことごとくを斬り払ったからだ。


「え?」


 チェチェン老も驚愕している。


「なんだよ。大したことないな」


 とんでもなく強くて、あまりにも速く、凄まじく手数が多いだけの攻撃だ。

 そんなものは、俺には通用しない。


「よう! 久しぶりだな! アン!」


 俺は努めて朗らかに、魔王アンヘル・カイドに挨拶した。

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