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澄み渡る強き気配

 ダンジョンの深部に向かうには、より魔力の濃い方向に進めばいい。

 ボスモンスターともなれば、自然界ではイレギュラーとされるほどの強い魔力を有している。故にダンジョンの核となりえるのだ。

 それがこの世界のダンジョン学におけるセオリーと言っていい。


 気になるのは、ダンジョンと化した魔法学園に瘴気が満ちていること。明らかに普通のダンジョンじゃない。

 そもそも瘴気はマーテリアの業。学園のダンジョン化に奴が絡んでいるのは十分に考えられる。

 もしかしたら、いや十中八九、俺の責任だろう。


 このダンジョンのボスモンスターと瘴気に直接的な関係はないが、瘴気がダンジョン化に大きく関わっていることは確実だ。

 そんなことを考えながら、俺は片手間に危険指定種を駆除していく。

 エマとヒーモは最初こそビクビクしていたが、深部に辿り着く頃には慣れていて、危険指定種を見ても大した反応を示さなくなっていた。


「あ、ロートス。あそこにも数体いるぞ」


「おけ」


「公子さま。校舎の陰に一体隠れています」


「見えてる」


 といった感じで、俺達は難なく最奥部へと進んでいった。

 辿り着いたのは、学内に建つ神殿だった。


「ここは……『クロニクル』のゲートがあるところだな」


 ヒーモが呟く。

 俺達がクラス分け試験を受けた場所だ。

 この先に最奥部があるのか。


「えと、どういうことでしょうか? ダンジョンの中にダンジョンがあるなんて」


 ふむ。

 俺はてっきりもう一つのセーフダンジョン『リベレーション』からダンジョン化が始まったと思っていた。イキールもそこで『アウトブレイク』が起こったと言ってたし。


 だが実は違った。

 魔法学園のダンジョン化と、『リベレーション』の『アウトブレイク』は別件なんだ。


「まじか……」


 フィードリッドが言っていた計画は『アウトブレイク』の方だ。魔法学園のダンジョン化なんて話は聞いていない。つまりこれは、〝ユグドラシル〟にとっても不測の事態。

 状況をコントロールするという点において、図らずもダンジョン化を収束させるという選択は正しかったようだ。


「ゲート、くぐらないのかい?」


 ヒーモが聞いてくる。


「くぐるさ。だが」


 この先は何が待っているか本当にわからない。

 クラス分け試験の時にペネトレーションが起こってから、閉鎖されたままだったし。イキールは小康状態だと言ってたけど、直接中を確認したわけじゃないだろう。


「公子さま」


 エマが不安そうに俺の袖を引っ張る。


「この先は……なにか、変な感じがします」


「ああ。俺も感じる」


 けど、嫌な感じじゃない。

 肌に纏わりつくような瘴気の感触じゃなく、純粋で強力な魔力の波動を感じる。

 ペネトレーションによって出現したボスモンスターのものだろうか。


「ま、行ってみればわかるか」


 迷うことはない。

 俺は二人に先んじて、『クロニクル』のゲートを通過した。


 そして、そこに待っていたものはー―。

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