オシトオール
「うし。やるか」
といっても、正直やることがない。
当初の計画は『アウトブレイク』によって発生したモンスターによって、デメテルの戦力を削ぐというものだ。
俺に課せられた役目は、そのバランス調整。
モンスターが弱すぎたら何かしらの方法でデメテル軍や冒険者達の邪魔をしなければならないし、強すぎて必要以上の破壊活動が行われたらそれを抑えなければならない。
しかし今のところ、あの巨大モンスターの強さは良い塩梅だ。
百人の猛者を相手に上手くやっている。エルゲンバッハやチェチェン老、ルージュなどの特に強い者達の猛攻を防ぎつつ、確実に敵の数を減らしている。
このままいけば、デメテル側は数人を残して全滅するだろう。その後、生き残った猛者中の猛者が巨大モンスターを倒して終わり。そんなシナリオが見える。
さて、どうしたものか。
と悩んだのも束の間。
「公子さま!」
背後から少女の声がした。
「エマ嬢? どうしてこんなところに」
走り寄ってきたエマは、膝に手をついて肩で息をする。
「そこで、ガウマン、侯爵令嬢に、お会いして……公子さまが、こちらにいらっしゃると聞いて……っ」
「大丈夫か?」
俺はエマに医療魔法をかけ、息切れを楽にさせた。
「あ、ありがとうございますっ。すごいですね……! 医療魔法まで習得されているなんて」
「そんなことより、どうして来た。危ないだろ」
「それが……ヒーモさんが学園に行ってしまって」
「なんだと? 今日は休日だったよな?」
「そうなんです。ですから、ダーメンズ派のみんなで勉強会をしてたんです。そこにこの騒動が起きて……避難しようって言ったんですけど、モンスターが学園から発生してるって聞いたら『吾輩の出番だ』って飛び出していっちゃって」
早口で喋るエマ。大慌てとはまさにこのことだ。
「あのアホが……!」
ヒーモの実力でどうにかなる問題じゃない。
行くしかないか。
「エマ嬢。俺はヒーモを追う。キミは家に帰るんだ」
「あの……あたし、寮生なんです。だから」
「学内に家があるのか」
「……はい」
「わかった。だったら俺と一緒にいろ。一番安全だ」
「は、はいっ」
俺はエマの手を取り、馬上に引っ張り上げ、抱くようにして二人乗りにする。
「行くぞ! はッ!」
馬を走らせ、魔法学園へと急行する。
急ぎたいの山々だが、エマが同行しているせいで『タイムルーザー』は使えない。緩やかな時間の中でエマをむりやり動かせば、彼女の肉体が耐えられないからだ。今は馬の脚力に頼るしかない。
街を駆け抜けながら、街の戦況を確認する。
どうやら戦える者は総出でモンスターの処理に当たっており、混乱は徐々に収まっているようだった。
さすが帝都といったところか。騎士団を中心とする軍人や治安維持を生業とする衛兵に加え、冒険者までもが総力を結集している。
また一般の男達は、女子供の避難に協力しているようだった。
人々が人種の境なく力を合わせて危機に立ち向かっている。
有事における、まさに理想の光景だった。
目的は脅威となる戦力の減であって、無辜の民に被害が出ることは望んでいない。
頑張れよ、みんな。
心中で人々にエールを送り、俺は一心不乱に馬を走らせた。
「公子さま! 正門が見えてきました! あ、あれっ!」
エマが指さした先。
正門を塞ぐように、アフリカゾウくらいの大きさの巨人型モンスターが三体並んでいた。その足元では、魔法学園に入ろうとした冒険者だったもの達がむごい姿を晒している。
「野郎……番人のつもりか?」
「あれ! どうするんですかっ?」
「押し通る!」
俺は手綱を離した左手に魔力をこめる。
「フレイムボルト――」
紅蓮の火炎をもって、巨大な三又槍を形成。
「――トライデント!」
投擲。
その威力たるや凄まじく、一瞬にして巨人達を貫き、蒸発させた。
「す、すごい威力……!」
「いちいち驚いてたらキリがないぞ」
俺はまだほんの一パーセントも力を出していないというのに。
「このまま突入する! 舌を噛むなよ!」
「は、はいっ!」
エマは目と口をぎゅっと閉じ、俺にしがみつく。
いざ、魔法学園。




