異端の女神たち
ガタッ。
何の音かと思った。
俺が立ち上がった時に動いた椅子の音だと気が付いたのは、数秒後のことだった。
「公子?」
隣でイキールがきょとんと俺を見上げている。
「ウィッキー……サラ……だと?」
どういうことだ。
テーブルについた手が震えている。
なぜ女神の名前を聞いてその名が出てくる?
俺はてっきり、前世界における創世の三女神が出てくると思いこんでいた。
気がつけば、場の視線のすべてが俺に集まっていた。皆一様に何事かと思っているようだ。
「ちょっと。どうしちゃったのよ」
イキールが俺の袖を掴んでぐいぐいしてくる。
俺の思わぬ行動が、彼女の冷静さを取り戻させたようだった。
「いや」
ここでウィッキーとサラの名前が出てくるとは思いもよらなかった。
しかも女神の名として。
グランブレイドでは、あの二人は女神として崇められているというのか。
まさか、異端信仰っていうのは……。
いや、考えても仕方ない。話の続きを聞かなければ。
「すまない。取り乱したようだ」
俺はすとんと椅子に座り直す。
「大臣。かまわず続けてくれ」
「え、ええ……」
立派な髭を弄り、大臣は仕切り直しの咳払いをした。
「要するに、誤解をして頂きたくないのです。我々は女神エレノアを信仰してはいませんが、だからといってあなた方の神を貶める意図は毛頭ございません。それだけはご理解いただきたいのです」
グランブレイドの重臣達は俺をじっと見つめている。ここが正念場といった風な雰囲気をひしひしと感じる。
「あなた達の異端信仰を認めろというの?」
イキールがまたいらん事を言い出した。
「異端だなんてとんでもない。我々にとってはこの信仰こそ正統なのです」
イキールがまた何か言う前に、俺が口を挟むことにした。
「ならあなた方の信仰を詳しく教えてください。知らずして理解も共感もない」
「仰る通りです。お許し頂けるなら、一からご説明させて頂きます。なにぶんデメテルの信仰とは大きく異なる部分もございますので、戸惑われることもあると思いますが」
「お構いなくどうぞ」
いいからはよ説明しろ。
「ではまず、我々が信仰する神々からご説明いたします」
それから大臣は神々の名を言い連ねた。
運命の女神ルーチェ。
愛の女神アイリス。
知恵の女神アデライト。
勇気の女神オルタンシア。
勝利の女神ウィッキー。
忠義の女神サラ。
星の女神セレン。
時空の女神アカネ。
「我らはこれらの女神達を〈鍵の八女神〉と呼び、深く信仰しております」
「〈鍵の八女神〉だと……」
そんなもん。〈八つの鍵〉のみんなじゃねーか。
それが女神だと?
ちょっと待ってくれ。
様々な想いや感情が次々と湧き上がってきて、俺は頭を抱えた。




