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帰還してニヤつく

 オーサ達が上手くやってくれたのだろう。

 一週間後。何がなんだかわからないうちに、俺は公爵家の騎士団に引き渡され、帝都のカーレーンの別邸に帰宅することができた。

 あまりにもスムーズな取引だったことに驚いたが、オーサ曰くデメテルの高位貴族に協力者がいるとのことだった。


「坊ちゃま。ご無事でなりよりです」


 エントランスで俺の帰還を喜ぶシエラは、ほんの少しやつれた様子だ。


「心配をかけたようだな」


「とんでもないことです。坊ちゃまがお帰り下さって、本当によかった」


 シエラの俺に対する扱いは、『エクソダス』での一件以降がらりと変わった。

 実はボンクラ公子ではなく、牙を隠しているだけだと知ったからだろうか。俺のことを主人と認めた感がある。


「坊ちゃまが攫われてからというもの、家中大騒ぎでした。旦那様もすぐに身代金をお持ちになってこちらにいらっしゃいましたし。奥様に至っては、騎士団を総動員しろとか、デメテル中の冒険者を雇えとか大慌てになられて。我々も奥様を嗜めようと大変でした」


「そうか……父上と母上が」


「お二人があのように心配なさるなんて、やはり坊ちゃまはアルバレスの嫡男なのだと、使用人達も感心し直しておりました」


「そうか。悪い気はしないな」


 返ってきてから使用人達の俺を見る目が違うと思ったら、そういうことだったか。

 というか、今まではやっぱりボンクラ公子だと侮られてたのかよ。

 別にいいんだけども。


「あと、坊ちゃまがお帰りになったらすぐにお会いしたいと仰るお客様がいらっしゃいまして……」


「誰だ?」


「ガウマン侯爵令嬢です」


「イキールが? ふむ……じゃあ連絡をしないとな」


「それが……すでにいらっしゃいます」


「え?」


「坊ちゃまがご帰宅なされると連絡を受けて間もなく、どこで聞きつけたのか、この屋敷を訪ねてこられて……現在は客間に滞在されています」


「まじかよ。誰が許可したんだ」


「旦那様です」


「……ああ。そりゃ仕方ない」


 大方、俺の婚約者候補とでも考えているんだろう。侯爵令嬢なら家格的にも問題ないしな。

 あるいは、イキールを対〝ユグドラシル〟工作員だと知った上での計らいかもしれない。


「わかった。俺の部屋に呼んでくれ」


「かしこまりました」


 とにかく、イキールが何を考えているのか、どう動こうとしているのか、探らなきゃならん。

 デメテル皇室が、どこまで情報を掴んでいるかも定かではないのだ。

 部屋に戻って着替えを済ませたところで、ノックが聞こえてくる。


「坊ちゃま、お客様をお連れいたしました」


「通してくれ」


 扉が開いた先にいたのは、外出用のドレスを来たイキールだった。

 意思の強そうな蒼い瞳。相変わらず惚れ惚れする美貌だ。


「小公爵様。お疲れのところお時間を作って下さり、ありがとうございます」


 折り目正しく一礼したイキールに、俺はさっさと手招きする。


「堅苦しい礼はいいって。入ってくれ」


 イキールを中に招き入れ、テーブルにつかせる。


「シエラ。しばらくこの部屋には誰も近づかないようにしてくれ。いいな?」


「ええ? それって……」


 頬を紅潮させたシエラは、慌てた様子で腰を折る。


「か、かしこまりましたっ。それでは、失礼しますっ」


 パタン。扉が閉まる。


「そこまで人の耳を気にしなくてもいいわ。防音魔法で盗み聞きは対策できる」


「ま、念の為だ」


「あの人。変な勘違いしちゃってたわよ」


「それでいいんだよ。本題をカムフラージュできるだろ」


 やれやれと言わんばかりに溜息を吐くイキール。こう言った仕草は、前世界の時と大差ない。しかしながら、イケメンか美人かでこうも印象が変わるとは。

 俺はイキールの対面に腰を下ろす。


「とにかく無事でなによりだ。聞いたところじゃ、エマ嬢と一緒に『クロニクル』を脱出したんだって?」


「ええ。あなたがエルフとドラゴンと一緒に消えてからすぐに、ペネトレーションは終息したわ。転送魔法もちゃんと使えたし、今もダンジョンに異常はないみたいよ。閉鎖はされてるけどね」


「当然だな。賊の侵入を許して、公爵家の一人息子を攫われたんだ。魔法学園の管理能力に問題があるだろ」


「そうね。けれど今回に限っては、エルフの連中が一枚上手だったと言わざるを得ない」


「というと?」


「狙いは最初からあんただったのよ」


「身代金目当てか? それならわざわざダンジョンに潜ってる最中じゃなくてもいい。いつだって拉致できただろう」


「いいえ。ダンジョン内部じゃないと無理なのよ。あなたを捕まえるところまではできても、追跡を撒くことはできないからね」


「うん? ああ、そうか。追跡魔法があるから」


 貴族ともなると、誘拐や消息不明に備えて、産まれた時に発信機のような魔法をかけられる。それがある限り、世界のどこにいようと追跡魔法で辿れるってわけだ。

 しかし、ダンジョンは異界。一時的に追跡を断ち切られる。その状態で居所を見失えば、探知されることはない。

 フィードリッドの奴。ちゃんと計画して行動してたんだな。


「それで、大丈夫だったの? あんたの方こそ」


 頬杖をついて窺うようにするイキール。斜に構えた上目遣いは、なんかグッとくる。


「心配してくれてたのか?」


 にやにや。

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