三女神ついに潰える
クリスタルが完全に砕け散り、一層強い輝きを放つ。
次の刹那。
復活したマーテリアが放った光の帯が、音を置き去りにする速度をもってエレノアに肉薄していた。
「あっ」
と言う間もない。
無数の帯はエレノアの胴体を貫き、いくつもの穴を空けた。
かのように見えた。
「遅すぎるわ」
逆に、マーテリアのどてっぱらに大穴が空いていた。
帯を紙一重で回避したエレノアが、その手に握った光の剣を突き刺していたのだ。
「やはり、敵いませんか」
マーテリアは何の感情も感じさせない声で言う。
「これもまた、世界の宿命なのかもしれませんね」
「達観してるつもりかしら。神といっても、宿命から逃れることはできないわ。あなた程度の位階の女神じゃ、なおさらね」
エレノアが、さらに深く剣を突き刺した。
マーテリアの腹から赤い血が散り、流れ落ちる。が、痛がる素振りもない。
「安心して。この世界は、新しく生まれ変わる。あなたは、あたしが創る世界の行く末を【座】から眺めているだけでいいわ」
マーテリアの体が、光り出す。
「いかん! ロートス!」
「ああっ!」
アカネと俺は同時に飛び出す。
エレノアがマーテリアの神性を吸収しようとしている。
それだけは食い止めなければ。
俺は腰に提げた剣を抜き放ち、居合切りの要領でマーテリアに斬りかかった。
その速度たるや凄まじく、光にも匹敵しそうな感じだった。
だからだろう。
エレノアが神性を吸収する前に、俺はマーテリアの胴体を真っ二つにすることに成功。
俺の剣は特別なので、マーテリアの肉体と同様、その神性も真っ二つにしたというわけだ。
二つに分かたれたマーテリアの肉体。その下半身をアカネが回収し、すばやくエレノアと距離を取る。
エレノアは、マーテリアの上半身を掴み、その肉体ごと神性を吸収してしまった。
残されたのは、マーテリアの下半身と、半分の神性のみ。
「アカネ! それを持って下がれ!」
「言われるまでもないのじゃ!」
アカネはマーテリアの下半身を抱えて、この地下空間から出ていこうとする。
「待ちなさい!」
当然それを追おうとするエレノア。
もちろん、俺が妨害する。
二振りの剣が、凄まじいエネルギーをもって激突する。
「神性を渡しなさい」
「やだね。おっぱいのついてる方を取っただろ」
「神性は欠けていたら意味がないの」
そう語るエレノアの背中には、三対目の翼が浮かび上がっている。
「ちゃんと羽が生えてる」
「見かけだけはね」
「いいじゃねーかそれで」
「だめよ」
「エレノア」
俺の語気がすこし強くなる。
「お前、いい加減にしろよ。なにがしてぇんだ。何の為に世界をリセットなんかするんだよ」
「あなたにはわからないわ」
「わからねぇから教えろって言ってんの」
「……言ってもどうせ理解なんてしてくれない」
「言ってから言え」
激烈な鍔迫り合いの中で、俺とエレノアは言葉を交わしていた。
だが、それもエレノアが力を込めたことによって、互いに弾き飛ばされ、距離を取って対峙する形に変わった。
「あたしはね」
眉を吊り上げたエレノアが、不機嫌そうな声色で口を開いた。




