もう一人の最強
エストの胸を、エレノアの腕が貫いていた。
『はっ』
笑みを浮かべるエレノア。
『こんなのが最高神なんてね。笑わせるわ』
光り輝くエレノアの手。その光が、白い人型を消滅させていく。
いや、あれは消滅させているというより、吸収しているのか。
〈あなた……なにを……〉
俺達も大概驚いていたが、マーテリアも同じく驚いていた。
〈エストの力が……わたしの力が!〉
『エンディオーネの時と同じよ。あなたの力も奪ってあげる』
どういうことだ。
そういえば、そもそもエンディオーネはエレノアを眷属にしようとして、逆に取り込まれたと言っていた。
一体、何が起こってやがる。
俺が言葉を失っていると、エレノアはエストを完全に吸収してしまった。
〈そんな……人ごときが、神を〉
『気の毒だけど、あたしの魂は元々この世界のものじゃない。最初から、この世界の理から外れているのよ。あなただってわかってたでしょう?』
〈しかし、この世界の肉体に収められている以上は、世の理からは逃れられないはずです……!〉
『あなたってほんとに何も知らないのね。本当に女神なの?』
〈え?〉
『何百年もこんなところに引きこもってたら、世間知らずにもなるのかしら』
エレノアは、小ばかにしたような顔でマーテリアを見る。
『ロートスがこの世界から消えた時、あたしはすでにこの世界の法則から外れてたのよ』
〈どういうことです〉
『ヘッケラー機関とファルトゥールが実行したプロジェクトに、エンディオーネが細工をした。そうやって色んな思惑が複雑に絡み合った結果、あたしとロートスは一緒にこの世界にやってきた。一緒にね。それがどういうことかわかる?』
わからん。
『あたし達は二人でひとつ。世界にそう認識されたのよ。二人でひとつであることが、正常な状態だった。けど、あなたがロートスを元の世界に返したせいで、そのバランスが崩れてしまったの』
マーテリアはやっとなにかに気付いたようだった。
〈そういうことでしたか。あなたはすでに……〉
『貴女達と同じ場所にたどり着いた』
まじかよ。
つまりエレノアは、エンディオーネの神性を得て女神になったんじゃなくて、その前からすでに女神になっていたってことか。
だからエンディオーネの神性も奪えた。
衝撃の事実すぎるわ、そんなん。
〈新たな女神、ですか。エンディオーネとわたしの神性を得た今、あなたはもはや……〉
『まだよ』
マーテリアの言葉を、エレノアがぴしゃりと遮った。
そして、ゆっくりと振り返る。
『やっぱり来たわね』
エレノアが見ているものが、何なのかはわからない。
だが、次の言葉で、その正体が分かった。
『残るはあなただけよ。ファルトゥール』
その瞬間、映像はぶつりと途切れた。




