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首の皮一枚

 すでに夜は明けつつあった。

 窓から差し込んでくる日の出の光が、司令室の中を照らしている。

 司令室の中には、難を逃れた数人の生き残り達が、身を寄せ合うようにして座り込んでいた。


「あ……アニキ!」


 その固まりの中からぴょんと跳び上がったのは、顔に擦り傷を作ったロロだ。


「アニキだ! アニキが来た!」


 喜びと安堵を全身で表現しつつ、ロロは俺に飛びついてくる。


「ロロ。無事だったか」


 俺はロロの頭をよしよしする。


「おせーんだよ! ほんとに、やばかったんだからな!」


 目尻に涙を溜めて、俺にしがみつくロロ。


「すまん。これでも急いだんだ」


 それでも、助けを待つ方からすれば長く感じただろうな。

 俺は、他の生き残り達に目を向ける。


「副長。お前も無事だったか」


「……喜んでいいのかわからんナリ」


 憔悴しきった副長は、ぐったりと座り込んでいる。相変わらず露出の激しい装いだが、今はそんなことも気にならないくらいの状況だ。


「生き残ったのは、これだけか?」


「いや。助かる見込みのある者達は、医務室にいるナリ。そっちは族長が仕切っているナリ」


「そうか」


「街の方にも捜索隊を派遣しているナリ。比較的無事だった者は、まだまだ動けそうだったナリよ。正気を失わず、なんとか混乱を食い止めようとしてくれたナリ」


「そうなのか?」


 あの霧を吸って心が折れないのは、なかなかの精神力の持ち主だな。どんな奴らなんだろう。

 内心抱いた疑問を察したのか、アカネが口を開く。


「ファルトゥールの霧は、大切なものを持っていたり、世界に希望を持っていたりするほど効くのじゃ。なんともないということは、そもそも世界や人生に執着していない証拠じゃ」


「それは、なんというか。素直に喜んでいいのか」


「無気力であることがプラスにはたらく場合もあるのじゃな。それによって、自分のなすべきことを見つけられたのじゃし」


 良かった。とは言えないが、不幸中の幸いだろう。

 少なくとも全滅は免れたのだから。


「そういえば、貴様の連れてきたあのビッチも無事ナリよ」


「メイさんか」


「ああ。あの女も大概狂っていたが、屈強な獣人とまぐわうことで正気を取り戻していたナリ。私にはとんと理解できんナリよ」


「はは。メイさんらしいな」


 けだものセックスによって正気を失うんじゃなくて、取り戻すなんてな。そんな女は、古今東西探してもメイさんくらいだろう。


「サラのねーちゃんは大丈夫なのか?」


 ロロは心配そうに、アカネの腕に抱かれるサラを見ている。


「案ずるな。眠っているだけじゃ」


「そっか。よかった。オイラを逃がすために、ねーちゃんが暴走した奴らを食い止めてくれたんだ。だから……」


「大丈夫だロロ。すぐ目を覚ますさ」


「……うん」


 ひとまず、この街の状況を確認したい。

 グランオーリスの方も気になるが、先にこっちを把握してしまおう。

 向こうは〈蓮の集い〉本拠ということもあって、頼りになる奴らがいっぱいいるからな。

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