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赤い楽園

 こじんまりとしていて質素な造りの建物だが、内張りは亜人の血で真っ赤に塗装されている。

 中で待っていたのは、百人余りの村人達だ。老若男女を問わず、興味のある人達が来ている。というか、この村の人達がほとんど来ている。来ていないのは多忙なごく一部だけだ。俺の両親とかな。


「ロートス・アルバレス。ようやく来おったな」


 祭壇に立つ神父が笑いまじりに言う。


「このようなめでたい日に遅刻とは、相も変わらず肝が据わっておる」


 村人達がどっと笑った。

 隣でカマセイが俺の肩を叩く。


「ホントにな。お前は大物だぜ、まったく」


「よせやい」


 カマセイの手を払いのけ、俺は祭壇へと歩みを進める。


「ローくん! お誕生日おめでとう!」


「ええスキル貰えたらええなぁ!」


「期待していますぞ。ロートス殿」


 村一番のモテ女子メイさん。

 子ども達の姉貴分ルージュ。

 頼りがいのあるおじさんであるエルゲンバッハ。

 みんなの祝福を受けながら、俺は亜人達の死体を踏まないように祭壇へと向かう。


「さぁ。祭壇へと上がってくるんじゃ」


 神父に言われ、俺は階段に足をかける。

 が、その前に村のみんなに振り返った。

 期待に満ちた目で俺を見る村人達。カマセイなんかは床にうずくまり、すでに息絶えていた。何かを抱えているようだけど、なんだあれ。

 俺は改めて、階段を上る。


「それではこれより、鑑定の儀を行う! ロートス、この水晶玉に触れるのだ。創世の女神ファルトゥールが、汝に尊い贈り物を授けてくださる」


 創世の女神ファルトゥール。あれ? そうだったっけ? スキルを授けてくれるのはエストじゃなかったっけ。いやエストってなんだよ。

 俺は祭壇に置かれた水晶玉を見た。まるで澄んだ水のように透明なそれに、ゆっくりと手を伸ばす。


 その時、背後から咳が聞こえた。何度も何度も、誰かが深く咳き込んでいる。

 おいおい頼むぜ。こんな時くらい我慢してくれってんだ。


 ほどよい緊張感の中にあった俺は、なんとなく拍子抜けして、背後を振り返る。

 カマセイの亡骸の下で、なにやらもぞもぞと動く物体がある。咳をしているのはあれかな。

 全身傷だらけで動かなくなっているカマセイの巨体をなんとか押しのけて、小柄な少女が這い出てきた。その子もカマセイと同じくところどころから出血していたが、まだ息はあるようだった。


「ご、ごしゅじん……さま」


 癖のある赤毛と、力なく寝た猫耳。俺と同じ十三歳くらいだろうか。その少女は、床を這いずって、俺に手を伸ばしている。


「ごしゅじん……さまぁっ……!」


 村人達は気にも留めていない。

 そして俺も同じく、あの少女を気に留める必要はない。

 もとよりこの教会は、亜人の血で染まっているのだから。

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