インフレ
そうと決まれば、さっさと五星天をやっつけちまおう。
俺が加勢すればどうとでもなるはずだ。
そう思い、動こうとした矢先だった。
『マスター。こちらアイリス』
念話灯に通信が入った。
「アイリス。どうした?」
『ブランドンに、未確認の勢力が近づいていますわ。統率の取れたモンスターの大群のようです。北からです』
「なんだって?」
俺は北に目線を移す。
たしかに、遠方に黒い影が点々と見える。
アイリス率いる部隊の仕事は、ブランドンから逃走する敵兵を排除し、またブランドンに近づいてくる者を監視することだ。
未確認のモンスター群が、意思をもってブランドンに近づいている。これは作戦にはない事態だな。
「アイリス。モンスターの数はどれくらいだ?」
『目算で百ほどですわ。瘴気を纏っております』
「……マーテリアの差し金だな」
この展開は想定していた。ファルトゥールとの戦いに、漁夫の利を狙って襲撃してくるのではないかと。
「エレノアの姿はあるか……?」
『今のところ見えませんわ』
「わかった」
瘴気を纏っているならアイリスでも手こずるだろう。対抗できる戦力はすべて出払っているし、ここは俺が対処するしかないか。
そんな俺の心を読んだかのように、念話灯から超絶的美声が響いた。
『ロートス。ちょっと待つっすよ!』
「その声は、ウィッキーか! 間に合ったんだな」
『もーばっちりっす! 今着いたところっすよ。アイリスと合流したっす』
メインガンの亜人街で瘴気の研究をしていたウィッキー。研究が大詰めということで、この作戦に参加できるかは微妙だったが、間に合って本当によかった。
『先輩が送ってくれた根源粒子の解析データのおかげで、瘴気の研究も大幅に進んだっすよ』
「朗報だな」
『瘴気に対抗するための魔法をいくつか開発したっす。こっちのモンスターは、その実験台にさせてもらっていいっすか?』
「はは。やけに自信ありげだな。いいぞ。任せる」
『上手くいったら、ご褒美期待してるっすよ』
「ああ。上手くいったらな」
ウィッキーも完全に俺のことを思い出している。本当なら再会を喜び合いたいところだが、状況がそれを許さない。
この戦いが終わったら、存分に愛でたいと思っている。おっぱい揉み放題権は、すでに有効化されたはずだ。
『アイリス。ウチが開発した強化魔法をかけるっす。いいっすか?』
『どうぞ』
『おっけーっす。アルバ・アムレート』
念話灯からやり取りが聞こえる。
『これは……不思議な感覚ですわ。わたくしの中が、温かい力で満たされていくような』
『アルバ・アムレートはすごいっすよ。今のアイリスの打撃なら瘴気を容易く貫通するはずっす。単純な威力も、数十倍くらいにになっていると思うっすよ』
「やば」
思わず呟いてしまった。
『ほらアイリス。早く試してみてくれっす。ウチが開発した魔法の効果を』
『かしこまりましたわ』
次の瞬間。
遠方の空に浮かんでいた黒い点々が、瞬時にして閃光に包まれた。
カメラのフラッシュのように何度か明滅した空間は、数秒後には何もなくなっている。
『うっひょー! すごいっすよこれは! やばいっす!』
「ああ。やばいな……」
ただでさえ凄まじい戦闘力を持つアイリスに、神性を貫く性質が付与されたとなると、まじで手が付けられない強さになる。俺でも勝てるかどうか怪しいレベルだ。
しかし、すごいのはウィッキーも同じだ。まさか瘴気を無効化する魔法を作り上げてしまうなんて、どんな技術なんだ。すごすぎる。
「ウィッキー」
『なにっすかー?』
「帰ったらいの一番にご褒美だな」
『ホントっすか! 約束っすからね!』
「ああ」
しばらく会えていなかった分、しっかり埋め合わせをしないと。
この戦いが終わったら、な。




