新たな真実とは
「ん、なにごとぉー! ジョッシュ殿の刀が割れおったぁ! あやつが睨んだだけでっ! 粉微塵ッ!」
「信じられぬーっ!」
侍達がいきり立つ。
俺くらいになると、目線だけで刀を破壊することなんて造作もない。神性も瘴気も付与されていない、ただの金属なんだからな。
「なるほど。腐っても〈尊き者〉ということかの。〈妙なる祈り〉をそこまで使いこなすとは、世界の脅威とみなされるわけじゃ」
当のジョッシュはいやに落ち着いていた。ここまで冷静だと、何かありそうでイヤだな。警戒は解かない方がいいぞ。
「世界の脅威だと? 心外だな。俺は救世神とまで言われる男だってのに」
誰が言い出したか知らんけど。
「傲りが過ぎるのぅ。所詮そちも女神に踊らされた一人に過ぎんということか」
女神だと。
「ジョッシュお前……何を知ってる……?」
「そちの知らぬ秘め事を、知っておるのじゃ!」
ジョッシュは一切怯むことなく、手刀を構えて接近してくる。
その両手首を掴み、受け止めた。
「だったらその秘め事とやらを聞かせてもらおうか」
俺はジョッシュのがら空きの腹に、膝をぶち込んだ。
十代前半の女子の薄いお腹に膝蹴りを打つのは忍びないが、中身がおっさんだからセーフだ。
だが。
少なくとも気絶くらいはすると思ったが、ジョッシュはまったく聞いていないような素振りだった。
「なんじゃその腑抜けた蹴りは」
まさか。
手加減したとはいえ無傷だと。
「おりゃ」
ジョッシュの頭突きが、強かに俺の顎を捉えた。
衝撃。
あろうことか、血飛沫が散った。
「なんと」
ジョッシュの額から。
周囲の侍達がワっと声をあげた。
「な、なにーっ! 攻撃したジョッシュ殿の方が、流血しているっ!」
「あやつの顎は、かように頑丈とでもいうのかっ!」
「丈夫じゃ! 紛うことなき丈夫じゃあっ!」
いちいち大袈裟だな、あいつら。
だが、今のでわかったことがある。
ジョッシュが放った頭突きには、本来人間が持たざる力が込められていた。
「女神の神性だと?」
「いかにも」
にやりと笑うジョッシュ。
「わしだけではない。親コルト派に属する主要幹部のすべてが、女神ファルトゥールの加護を享けた。故にこの世界の真実を知ったのじゃ」
「もう聞き飽きたぞ、そいつは」
「だからたわけというんじゃ。真実は、どこから見るかによってその姿を大きく変える。そんな簡単な道理もわからんか」
ジョッシュが、俺の股間を蹴り上げた。
痛みもダメージも一切なかったが、股間を蹴り上げられたというその事実にヒヤリとしてしまった。
それが、刹那の隙を生んだ。
「死ねえいい!」
ジョッシュが拘束を破り、手刀をもって俺の首筋を切り裂いた。




