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女傑

 奥に行けば行くほど、そこかしこで戦闘を目にする。


「こんなところまで敵の侵入を許してるのか」


「どうやら内通者がいるようです。世界会議が始まった時には、すでに内部に潜んでいたのでしょう」


「なんてこった」


 いつの世も獅子身中の虫はいるもんだ。

 大きく強固な組織を蝕むのはいつだって内部の敵なんだな。


「アデライト先生が心配だ。奴らはサラマンダー部隊と互角以上に戦ってた」


「新たに編成されたエライア騎士団は、A級冒険者から選出されたと聞きます。間違いなくグランオーリス最強の騎士団となったからには、そう簡単にはやられないでしょう」


「だといいが」


 俺は焦る気持ちを押さえ、玉座へと駆ける。

 アデライト先生も凄腕の魔法使いだけど、もしもということがある。

 万が一のことがないように、早く助けにいかないと。


「まもなくです」


 俺は走る速度を上げ、守護隊に先んじて玉座の間に突入した。

 勢いよく飛び込んだ俺の目に映ったのは、死屍累々とした縦長の空間。


 エライア騎士団は、百近い無残な姿を晒している。

 親コルト派の戦士達は、皆同じ方向を向いて刀を構えていた。玉座の方だ。


 玉座には、脚を組んで座すアデライト先生の姿があった。


「物の怪め!」


「誰ぞ! はやくあのハーフエルフを斬れ!」


「何を申す! そこもとが参れ! 某はちょっと無理で候!」


 勇猛なクィンスィンの侍達は、明らかに腰が引けている。

 高い位置にある玉座の上で、アデライト先生は凛とした表情で敵を見下ろしていた。その耳は人間でもエルフでもなく、ハーフエルフ特有の短い三角の形状をしていた。スキルで隠すのをやめているのか。


「どうしました? もう終わりですか?」


 どうして先生が玉座に座っているのかはわからないが、割と似合っている。

 それはともかく、先生はサラマンダー部隊ですら苦戦する相手を、たった一人で封じ込めているってことか。

 え、強くない?


「ええい! 皆でかかるぞ!」


「応ッ!」


 百人以上の侍達が、刀を構えて突撃する――その直前。


「フレイムボルト」


 アデライト先生の指先から、炎の短矢が撃ち出された。うまい棒ほどの大きさのそれは、常人の肉眼では捉えきれないほどの速度で飛翔し、先頭の侍に直撃して爆散。数十人を巻き込んで紙屑のように吹き飛ばした。


「すげぇ」


 思わず呟いたのは俺だ。

 アデライト先生の魔法の実力は知っていたが、さらに磨きがかかっている。

 当然、残ったクィンスィンの侍達は慄然としてした。


「尋常ではない……ハーフエルフとはこんな種族なのか」


「ただのフレイムボルトでこの威力……上級魔法を使われたらどうなるのだっ」


「まさに、飛んで火にいる夏の虫とは某らのことで候!」


 日本のことわざだ。どうしてクィンスィンの民が知っているのだろう。

 それはともかく。

 アデライト先生は眼鏡をくいっと上げ、理知的な笑みを作る。


「上級魔法なんて使いませんよ。教え子のお家を壊したくはありませんから」


 フレイムボルトは初歩中の初歩の戦闘魔法だ。それなのにこの威力はまじでやばい。かつて見たエレノアの最上級魔法に匹敵する。

 さすがは俺の婚約者だ。こりゃ、助太刀はいらなかったかもしれないな。

 そんなことを考えていると、アデライト先生と目が合った。

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