クズ男
思わず、俺は姿勢を正した。
「正直なところ、俺はびっくりしている」
以前シーラと〈八つの鍵〉について話した時、セレンが鍵である可能性が高いと言っていた。だから、セレンが俺に好意を持っているかもしれないとの予想はあった。
だが、まさかこのタイミングで結婚を申し込んでくるとは思わないだろう。
「何か意味があるんだよな。わざわざ世界会議の合間にそんな話を持ちかけてくるってことはさ」
セレンは首肯する。
「あなたはこれから世界再興の中心人物になる。魔王を倒した功績は大きい。それこそ救世主と名乗ってもいいくらい。そんな人物が王になれば、グランオーリスは安泰」
「ちょっと待て。その言い方だと、世界の覇権を取るために俺を取り込もうとしてるって聞こえるぜ」
「間違ってはいない。お父様は意識不明の重体で、いつ目を覚ますかもわからない。お母様も病に伏せってる。この国のためにも、力のある指導者が必要」
「そんなの……セレンがいるじゃねーか」
「あたしじゃ力不足。正統性は血筋ばかりで実績が足りない。その血筋も、他の国ほど重く見られない。グランオーリスは新興国だから。混乱に乗じてクーデターを狙う勢力もいる」
「そんなのがいるのかよ」
「いる。旧ヴェルタザールや旧メサの有力貴族達。兄を謀殺して王位についたお父様をよく思わない者は少なくない」
「だから魔王を倒したってくらい強いインパクトを持つ俺が玉座につけば、丸く収まるってことか」
「そう。あたしの血筋と、あなたの偉業。合わされば誰も文句は言わない」
なるほど。話はわかった。
とはいえ話を聞く限り、セレンは好意があるから俺と結婚したいんじゃなくて、祖国のための政略結婚をしなければならないって感じだ。
一国の王女として正しい判断かもしれない。
だが。
「なぁセレン。知っていると思うが、俺には婚約者がいる」
「アデライト先生」
「ああそうだ。だから俺は、この戦いが終わったらあの人とちゃんと結婚しようと思ってる」
俺はセレンと正対し、意を決する。
「セレン。結婚を申し込んでくれて嬉しい。俺的に、お前みたいな美少女お姫様と結婚できるのは天にも上る心地だ。けどな、早まっちゃいけない。この際、俺の結婚に対する思いを言葉にしておこうと思う。それを聞いてから、改めて考えても遅くはないはずだ」
表情を変えないセレンの代わりに、コーネリアが眉を上げていた。
「どういうことです。アデライト女史と婚約しているから、殿下とは結婚できないと言うつもりですか」
「いや違う。その逆だ」
「逆とは?」
「一組の男と女が、お互い唯一永遠の愛を誓う。それはそれでロマンチックだし、美しい愛の形だとは思う。だが実際のところ俺は愛多き男でな。大切な女が何人もいるし、彼女達と肉体関係だって結んでる」
「なにを言い出すんですかっ」
コーネリアは頬を赤く染め声を荒げた。
意外と初心なんだな。
「はっきり言えば、俺は……ハーレムの主になりたいんだ。誰か一人を選ぶことはできない。なぜなら、みんなを愛しているからだ。俺にとってのただ一人の女になりたいというなら、残念ながら受け入れることはできない。もちろん、自分勝手なことを言っている自覚はある。これを聞いても、まだグランオーリスの王になれなんて言うか?」
セレンはやはり、表情を変えなかった。




