最強、ふたたび
「はは」
思わず笑いが漏れた。
何の笑いなのか、俺にも定かじゃない。
ただ、ある種の懐かしさを覚えたのは確かだ。
「ロートス」
ヒーモはぴょんとジャンプして、ドラゴンから降りる。
「随分とお待たせしてしまったようだね」
「別に待ってないけど」
「わはは。またそんなつれないことを言う。吾輩のスキルなくして、どうやってこの窮地を乗り越えるというんだい」
「わかってるならさっさと来やがれよ」
「そう怖い顔をするな。吾輩は神の山から湧いて出るモンスターどもを抑える任務についていたんだ。選ばれし者だけが担う仕事だぞ? 世界的な被害がまだこの程度で収まっているのもすべて吾輩のおかげというわけだ」
「わーったわーった。そんでどうする。モンスターを抑えたはいいにしても、まだ魔王が健在だぞ?」
「問題ない。援軍に来たのは吾輩だけじゃないんだ」
「なに?」
「案ずるなロートス。魔王はあっちに任せておいていい。キミは吾輩と共に、地上の人々を守るために戦うべきだ」
「まじかよ」
「まじだ。どうにも瘴気を纏ったモンスターには吾輩のスキルの効きが悪いんだよ。如何せん、短時間しかテイムできない」
ヒーモはどことなく落ち着いた雰囲気がある。いかにヒーモといっても、二年前に比べて成長しているようなのは確かなようだ。
「わかった。任せろ」
俺はさっき死んだことによって超絶神スキル『ものすごい光』を失ったが、それによって取り戻したものもある。
そう。〈妙なる祈り〉だ。
俺が人間として本来持つこの力があれば、数千のドラゴンごとき地を這う蟻の群にも等しい。
「すぐに終わらせる」
俺は足の指の力だけで跳躍。直立のまま、まったく姿勢を変えることなく数十メートルの高さに到達した。
そこから見下ろすと、無様にも互いに襲う合うモンスター達がよく見渡せる。
俺は深く息を吸って、両手を大きく広げた。
「イメージが大切だからな」
人間、頭で思い描けることしか実現できないもんだ。明確に具体的にイメージしないことには、何事も中途半端な結果しか得られない。
幸い、俺は今までクソスキルも神スキルも使ったことがあるし、瘴気だって自在に操ってきた。そんな男はこの世界に二人といない。
その経験の分、俺のイメージ力は常軌を逸しているはずだ。
俺の右手が、眩い閃光に包まれる。
そして左手は、漆黒のオーラを放つ。
これはスキルでも瘴気でも、ましてや女神の神性でもない。
それらを参考にして作り出した、俺自身の力。
創造にはまず模倣が必要だ。どれだけ他の真似をしても、決して失われない俺らしさ。それを見つける為に。
手中にある光と闇が、融合する。
「久々に、ぶっ放せる」
次の瞬間。
最強じみたエネルギーの奔流が、戦場を包み込んだ。
誰もが何も理解できなかっただろう。瞬きを数回する間に、瘴気に侵されたモンスター達は跡形もなく消え去っていた。
人間の生命に内在する無限の可能性。それこそが〈妙なる祈り〉だ。
瘴気を克服し、その本質を理解した俺にとっては、瘴気に満ちた戦場を支配することなど造作もないことだった。




