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泥仕合

「我らは聖女が魔王を討つまで、モンスター共を引き付け続けなければならない。そして力ある者は聖女と共に魔王と戦うのだ」


「命を捨てる作業だな……」


「もとより生き残るつもりなどない。国家の未来と臣民のために戦い、死ぬことが王の責務ゆえな」


 ああ。たしかにこの人はセレンの親父さんだ。


「安心しな。もしあんたが死んでも、その遺志は立派な王女が継いでくれるさ」


「ふっ。だといいが」


「それはそれとして、死なないように力は尽くそうぜ。娘を悲しませる父親にはなりたくないだろ?」


「無論。死なずに済むならそれに越したことはない」


「上等」


 話している間にも、戦場ではモンスター達が猛威を振るっている。

 グレートセントラルの軍はもはや半分ほどに減っていた。すでに数万の兵士が、散っていったというわけだ。


「ジェルドのノイエ。瘴気に対抗できる力が、超絶神スキルだけでないことは知っているか?」


「ああ。あれだろ、スキルを超えた力。サニー・ピースが言ってたよ。人の持つ意志の力だって。さっきあんたも使ってたな」


 そういえば、サニーの奴は何をしているのか。国家の一大事に現れないというのは不自然だ。死んだなんてことはないだろうし。


「サニーを知っているのか。話が早くていい。この軍には、サニーほどではないにしろ、意志の力を手に入れた者達がいる。みな優秀な冒険者達だ。神スキルと意志の力、そのどちらかを使える者を中心に、モンスターを食い止める。他の者はその援護にあたる」


「いいと思う。俺はどうすればいい?」


「私と共に聖女に加勢してもらいたい。キミがどうして瘴気を扱えるかはわからないが、その力は魔王にも通じるだろう」


「……俺が魔王側だと疑わないのか?」


「明君とは、人の本質を知る達人とも言えよう。私は己の見る目を信じるのみ」


 テンフにも同じようなことを言われたな。俺ってそんなにわかりやすいのかな?


「わかった。エレノアに加勢を――」


 言いかけたところで、俺達のすぐ近くに何か大きなものが降ってきた。大地に墜落したそれは、轟音と砂塵を巻き上げる。


「なんだ……?」


 俺は咳き込みながら、落ちてきた物体を確認する。


「……テンフ?」


 なんと、エレノアと一緒に魔王と戦っていたはずのテンフが、ボロボロの状態で倒れていた。紛れもなく瀕死だ。鎧は粉々に砕け、全身から鮮血を垂れ流している。四肢があらぬ方向に曲がり、胴体の一部が潰れていた。


「グォ……ぐ……ノイ、エ……殿……!」


「おい喋るなっ。いま治療する!」


 俺は慌てて駆け寄り、テンフに医療魔法をかける。


「ファーストエイド!」


 俺の手から漏れたほのかな癒しの光が、テンフを照らす。

 ところが、まったくと言っていいほど効果がなかった。

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