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神より優れたる人やないか

 どれくらいの間、機械の中にいたのかはわからない。

 一瞬だったような気もするし、とても長い時間だったような気もする。


 ともあれ、俺はいつしか失っていた現実の意識を取り戻した。

 自身の中に脈打つスキルの胎動を、確かに感じることができる。

 俺が得たスキルは、まじですごい性能を持つやつだ。過去、現在、そして未来を包括するような、文字通りの神スキル。

 瘴気と併せて用いれば、とてつもない力を発揮するだろう。

 今の俺は、この世界の女神をも凌駕する存在になったような気がする。


 それはともかく。今はもっと気にすべきことがあるのだ。

 機械の扉が、ゆっくりと開いていく。

 眩い輝きに照らされながら、俺は一歩ずつ外に踏み出した。

 青白い光はすぐに収まった。目の前には、変わらない雑多としたエントランスが変わらず広がっている。


「……ロートスさん」


 機械から出た俺を迎えてくれたのは、アデライト先生のなんとも言えない表情だ。

 嬉しそうにも見えるし、どことなく悲しそうにも見える。今にも泣き出してしまいそうな微笑みである。


「先生」


「なんだか、変な感じですね。知っているのに、憶えていなかったというのは……」


「思い出しましたか? 俺のこと」


 先生は答えない。

 にわかに潤んでいく瞳が、すでに答えだった。

 どうしようもない愛おしさを覚える。俺がこの世界から消えてしまってから二年とすこし。俺達はいまになって、本当の意味で再会することができた。

 すっと先生に歩み寄り、零れそうになる雫を指先で拭った。


「出てきた瞬間、抱き着いてくれるかもって期待してたんですけどね」


「私は年上のおねえさんですから。我慢してるんです」


「そっか」


「あ――」


 俺は先生を抱きしめる。

 強く強く。壊れ物を扱うよりも丁寧に。

 その唇を奪う。

 柔らかさと温もりとが、俺の心を落ち着かせ、また昂らせていく。

 はじめは強張っていた先生も、次第に俺に身を委ねるようになっていった。


「我慢してたのは、俺の方ですよ」


 長い口づけの後、絞り出すように呟く。


「本当は、学園で会った時すぐにでもこうしたかった」


 けれどそれは、あの時の先生の気持ちを無視することになる。だから我慢したんだ。


「はい……わかります。今の私と、同じ気持ちだったんですよね?」


 先生の手が俺の頬を撫でる。

 その微笑みはすべてを包み込んでくれるような、あたかも聖母のようだった。

 俺は先生を抱きしめたまま、服の中に手を滑り込ませる。


「あ、あのっ……ロートスさん。せめて、ベッドまで行きません?」


「いやだ。待てない」


 近くの機械に先生を押し付けるようにして、再び唇を重ねる。


「もう……」


 先生は観念したように、俺の首に腕を回した。

 それから、俺の手指の動きに合わせて、色っぽい吐息を漏らす。


 視界の端に映っているはずののっぺらぼうの少女のことなんか、二人してまったく見えていなかった。

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