錬金術ってレベルじゃない
「先生」
俺の足も自ずと速くなる。
機械の影から歩み出てきたアデライト先生は、ほとんど駆け足で近寄った俺の手を取った。
「お待たせしましたロートスさん。調整は終わっていますよ」
「これでスキルを得られるんですね?」
「理論通りにいけば、ですが」
その微笑みには、確かな自信が表れている。
「先生がそう言うなら大丈夫です」
俺はエントランスに鎮座する中でも一際大きな機械を見上げる。
「早速、試してみますか?」
「……そうですね。ここでもったいぶっても仕方ない。早いところ、スキルをゲットしちまいましょう」
そうすれば、先生も俺を思い出せる。
みんなが、俺を思い出してくれる。
「では」
先生の指先から、機械に向けて魔力の波が発せられる。
すると、機械に取り付けられた扉が、ひとりでに開いていく。扉の奥は、青白く眩い光に満ちていた。
「ロートスさん。この中へお入りください」
俺は唾を呑み込む。
いざとなると、緊張してくるな。
「一応、聞いておきたいんですけど」
「なんでしょう?」
「スキルを再取得するって、一体どういう仕組みなんです?」
「根本は、鑑定の儀と同じ要領です」
「鑑定の儀と?」
「はい。通常の儀式では、神官が最高神エストとの仲介を行い神託を告げる。そういうものです」
「じゃあ、この機械は、神官の代わりってことですか?」
「当たらずも遠からずですね。この機械が放っている光は根源粒子と呼ばれるもので、古代人の遺物なのです」
「その根源粒子ってのは、一体どういうものなんです」
またなんか新しい要素が出てきたのかな。
「その名の通り、すべての根源となる微粒子のことです。我々の肉体や、その中に巡る魔力。獣や植物もまた同じ。そして瘴気もまた、もとを辿ればすべて根源の粒子へと行きつくのです」
俺の脳裏に、女神マーテリアの言葉が過る。
『あなたは何も知らない。この世界が何で出来ているのか。何が満ちているのか』
二年前のあの時。奴はたしかに、そんなことを言っていたような気がする。
こういうことだったのか。
この世界は根源粒子で出来ていると。
「根源粒子に触れた者は、この世の神秘を解すると言われます。私も、ほんの僅かではありますが、この世界の真実に見えることができたんですよ」
「それが、スキル獲得とどんな関係があるんです?」
「すべての根源であるからには、スキルにも同様のことが言えます。根源粒子の配列を操作し、スキルを形作るのです。ウィッキーの『ツクヨミ』も、この根源粒子から作られました。いわばこの機械は、最高神エストの代替といったところでしょうか」
「ええ?」
なにか、とんでもないことを聞いたような。
「それってつまり、無から有を生み出すってことなんじゃ?」
「近いものはあります」
なんてことだ。アデライト先生、すごい。
「わかりました先生。その根源粒子について、また後で詳しく聞かせてください」
「ええ。もちろんです」
先生はにこりと微笑む。
「とりあえず、先にあれをやってしまいましょう」
俺は青白い光で満たされた機械へと、足を踏み入れる。
「お願いします、先生」
そして、扉が閉まった。




