三度の再会
「マホさん……?」
黒いポニーテールを揺らしてこちらに歩いてきたのは、この世界で共に育ったマホさんだった。
クラシカルなメイド服は薄汚れ、ボロボロになっている。
「ロートス……超探したぜ、このヤロー……」
ふらふらとおぼつかない足取りで、マホさんは俺の前までやってきた。
倒れそうになる彼女を、しっかりと抱きとめる。
「マホさん。どうしてここに」
「お前さんを待ってたんだ。ここに来ると、思ってな」
「待ってたって、いつから?」
「さぁな」
マホさんはかなり衰弱していた。長い間ここで待っていたというのは、本当らしい。
それに、俺のことを憶えている。マホさんは神族の末裔だけど、その血はかなり薄いと聞いていた。ルーチェでさえ忘れていたのに、どうしてマホさんが憶えているか。
いや、そんなことより。俺は割れた河を見る。
「とにかく、マホさんも一緒に行こう。話は向こうで聞くよ」
「ああ……そうしてくれ」
俺はマホさんをお姫様抱っこして、河底へと歩いていく。
二年前は俺の方が身長が低かったのに、今ではマホさんが小柄に感じる。
「転送門が起動していますわ」
三歩後ろをついてくるアイリスが呟く。たしかに、赤く光る魔法陣が浮かび上がっていた。
よし。コッホ城塞にテレポートだ。
「行こう」
そして俺達は、光る転送門の上に乗った。
魔法陣を踏んでまもなく、目の前が赤く染まる。
視界が明転する。
次に意識がはっきりした時、俺が立っていたのはコッホ城塞の外縁であった。
目の前には、出迎えが一人。
「キミか」
のっぺらぼうの少女だ。
ボロ布を纏った華奢な少女は、手招きをすると、背を向けて歩き出す。
どうやら案内をしてくれるらしい。
俺達はその後を追った。
「なぁ、この人を休ませてほしいんだけど」
一応ファーストエイドはかけておいたが、負傷というより消耗だからあまり意味はないだろう。
今のマホさんに必要なのは睡眠だ。
城塞の中を進んでいく道で、のっぺら少女がとある建物を指さした。
「あそこって」
覚えがある。いつか行ったことのある養護室だ。
「ああ。たしかに、おあつらえ向きだな」
マホさんはいつの間にか、俺の腕に抱かれて眠ってしまっていた。
頬についた土をそっと払い落して、マホさんをアイリスに託す。
「頼む。様子を見ておいてくれ」
「かしこまりましたわ」
アイリスはマホさんを抱きかかえると、音もなくふわりと跳躍して、養護室へと向かった。
さて。
「すまんな。先生の所へ行こう」
少女は頷く。
それからすこし歩いたあたり、コッホ城塞の中心地に位置する特に大きな建物に到着する。ほったらかしにされていた割には、綺麗な建物だ。
その中に入ると、吹き抜けのエントランスがあり、その広い空間にいくつもの機械が無造作に並べられていた。ウィッキーの研究所にあったようなのと似ている。
神秘的な青い光を放つそれらの機械は、鉄ではなく魔石で出来ているようだった。
「ようこそ。私の研究所へ」
その機械の裏から、アデライト先生がひょっこりと美貌を覗かせた。




