表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
585/1001

鍵の行方はいずこやねん

 数日後の話だ。

 一通り検査を終えた俺は、亜人街の街並みを歩いていた。

 久しぶりのお出かけだ。ずっと研究室にこもりきりだったからか、空気がやけに美味く感じる。


「あなたから見て、この街はどう?」


 隣を歩くセレンが、じっとを俺を見上げている。


「ああ。笑顔と活気に満ちてる。街が繁栄してて、清潔だっていうのも大切だけど、一番はそこに住む人達が楽しんで暮らせているかどうかだ。そういう意味で、この街はすごいいいと思う。亜人連邦の見本にしたいくらいだ」


「そう」


 簡単な返事だったが、セレンはどことなく嬉しそうだ。


「あれ」


 俺の袖をつまんだセレンが指さしたのは、通りに出店している屋台だった。


「食べるか?」


 頷くセレン。

 俺達は屋台の店主である獣人の親父さんに声をかけ、よく分からない肉の串焼きを購入した。

 食べ歩きをしながら、俺達は街を練り歩く。

 俺は亜人連邦の使者として、亜人街の視察をしているのである。肩書がある以上、一応ちゃんと仕事をしておかないとな。そういう責任感も大事だ。


「師匠から聞いた。神の山、延期になったって」


「ああ。そうなんだ。瘴気に侵されて死ぬことはないらしいからな。ちゃんと準備して行くつもりだ」


「準備って?」


「鍵が必要なんだよ。エストの封印を解く〈八つの鍵〉が」


「それが、あたし?」


「ああ。たぶん」


 鍵は決まった人物じゃない。俺と関わりの深い人物なら誰でもいいという話だった。具体的には〈妙なる祈り〉の影響を色濃く受けた人物ってことだ。

 つまり、二年前、俺がこの世界を一度去った以前の関わりが重要である。

 簡単に言えば、俺のことを好きな奴、だったか。


「なぁセレン」


「なに」


「おまえ、俺のこと好きか?」


「……どうして?」


 珍しく、返事までに間があった。

 よく考えずに聞いたは良いもののなんと答えようか迷った。

 俺のことを好きだったら鍵だとは、なんとなく言いにくい感じがする。感情を利用しているようだから。

 とはいえ、セレンが鍵になり得るかどうかというのは重要な問題だ。思えば、二年前から気になっていることだし。


「質問してるのはこっちだ」


 だから、そんな感じで返すしかなかった。


 翡翠色の瞳が俺を見上げ、それからふいっと前を向く。


「あたしには好きという感情がよくわからない」


 淡々とした答え。


「でも、あたしとコーネリアを助けてくれたあなたのことは、信頼している」


「そっか。うん、ありがとな。それで十分だ」


 すくなくとも、人として好感を持ってくれているということに違いない。

 となると、セレンも鍵の一人に数えてもいいはずだ。


 改めて、思い浮かぶ人達を挙げていこう。

 サラ。

 アイリス。

 アデライト先生。

 ウィッキー。

 ルーチェ。

 オルタンシア。

 セレン。

 皆に俺のことを思い出してもらえたら、このあたりは固いはずだ。


 これで七人。

 あと一人は、一体誰になるか。


 エレノアか。聖女になったあいつはちょっと厳しいかもしれん。

 なら、エルフの誰かとか? うーん、なくはないといったところか。

 ヒーモという可能性もあるし。

 これは俺の願望が大きく混じっているが、アカネという線も捨てがたい。あいつ自身は否定していたけど、あの時は今と状況が違うしな。


 考えれば考えるほど、最後の一人が確定しない。

 どうしたものか。


「殿下! こちらにおられましたか!」


 そんな折、コーネリアが急いだ様子で現れた。

 なにやら、只事でない雰囲気だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ