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元人間のやつ

 その直後だった。

 突如として目の前に降ってきた巨大な影。

 どしんと図太い着地音が轟いた。


「まじかよ」


 八つの目。軽自動車くらいなら丸のみに出来るんじゃないかってくらいのクソでかいアゴ。よだれに塗れて並ぶ鋭利な牙。裂けた口の端から瘴気が漏れている。完全にモンスターだ。

 けど、俺が驚いたのはそんなことじゃない。この程度のモンスターなんて見慣れたもんだ。いくらだって倒してきてる。


 問題は、その姿だ。

 胴体はところどころが鱗と化し、また別の部位には分厚い体毛が生えている。だが、そんな胴体から伸びる四肢は、まるで人間の手足だった。

 腕と脚の形も、肌の質感も、人のそれだ。

 つまりそれは、こいつがもともと人間だったってことだろう。


「躊躇わないで」


 セレンの声。


「それはもう人じゃない」


「けど」


 そうかもしれないけど。


 獣の咆哮が、びりびりと空気を震わせる。


「ただのモンスター。人としての命は、もう終わってる」


「……しゃあねぇ」


 割り切るしかないか。


「アイリス。やるぞ」


「仰せのままに」


 俺とアイリスが闘気を見せた瞬間、モンスターは巨大な頭を振り回して噛みつこうとしてきた。

 動きは鈍い。だが喰らったら無傷とはいかないだろう。わずかとはいえ瘴気を纏っている。


「おらッ!」


 カウンター気味に跳び蹴りを喰らわせる。

 俺のつま先がモンスターの顎にクリーンヒットし、巨体が大きく傾いた。

 跳躍していたアイリスは、その隙を見逃さない。


 落下のエネルギーを乗せたハンマーパンチが、モンスターの頭部を叩いた。

 真上からの一撃を喰らったモンスターは、地面に叩きつけられた衝撃も相俟って頭部を完全に破壊される。

 その後、俺の隣に軽やかに着地するアイリス。


「綺麗に決まったな」


「はい。ですが油断は禁物ですわ」


「わかってる」


 ここ最近、頭を失くしても動き続ける奴らばっかりだった。

 頭を潰せば死ぬなんていう既成概念に囚われてちゃ、また同じヘマをやらかすぜ。瘴気に侵された生き物はゾンビだと思った方がいい。


「フレイムボルト」


 指先から放った炎の短矢が、痙攣するモンスターに火をつけた。そのまま燃え盛り、悪臭を撒き散らせながら黒い炭と化していく。


「セレン」


 俺は振り返る。見返り美人ならぬ、見返り美男ばりに。


「どうして街の中にダンジョンがあるんだ。ちゃんと説明してくれ」


「もちろん」


 ふわりと手をかざすセレン。そこから吹いた冷風が、燃え盛る炎を吹き消した。


「歩きながら話す」


 そう言って歩を進め始める。


「参りましょう」


 コーネリアの促しに応じ、俺達はその後を追った。

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