これぞまさに
セレンは嬉しそうに、にっこりと微笑んでいた。
それは俺が今まで見た中で、一番の笑顔だったように思う。
「コーネリア。あなたの決意、とても嬉しく思う。騎士達が去ったことは残念。だけど、手伝いをしているつもりの者が何人いようと意味はない。あたしと一緒に戦うと心から決めた今のあなたなら、必ず立派な騎士団長になれる。今は一人でも、一人また一人と、後に続く者がきっと現れる」
「殿下……」
コーネリアの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
セレンの細い指が、陽光を受けて光る雫を拭った。
なんか、俺まで嬉しくなってくるぜ。
単なる主従か、それとも決して分かたれぬ主従か。
立ち去った騎士と、コーネリアとの違いはそれだろう。
膝をつくコーネリアを、セレンは優しく抱きしめる。コーネリアもそれに応えた。
「マスター」
「なんだ」
アイリスの和やかな声。
「これが、てぇてぇというものですか?」
「そうだ」
間違いなく。
「これが、てぇてぇってことだ」
しばらく、俺とアイリスは目の前のてぇてぇ光景に目を奪われていた。
その後。
俺達四人は再びメインガンへの道を辿り始める。
馬車も壊れちまったから、徒歩で行くことになってしまった。
ここまで来れば変身したアイリスに乗って行こうかとも提案したが、まだ四天王が一体残っている現状を鑑みてやめておこうとセレンが主張した。
しょうがないから歩くぜ。
正直、俺にもあんまり時間は残されていないし、他にもやることがあるんだが、目の前の問題をほったらかしにしておくのもなんだか違う気がする。
乗り掛かった船だし、メインガンまでは付き合うさ。
「なぁセレン」
「なに」
「なんつーか、そもそも目的は達成できたわけだし、メインガンに向かう必要はあるのか?」
歩きながらの問い。目的というのは、騎士の選別のことだ。
セレンの視線がこちらに向く。
「ある」
「なんで?」
「人を待たせてる」
「ふーん」
誰だろ。
「安心して。その人と合流したら、一緒に神の山に行く」
「ああ。そうしてくれると助かる」
俺達の話を聞いたコーネリアが訝しげな顔になった。
「神の山? いったい何の話ですか?」
ああ。そういえばコーネリアには伝えていなかったか。
まぁ、もう伝えてもいいだろう。
「実はな……」
俺は世界の現状と、セレンとの約束をざっくりと話す。
コーネリアの顔は、驚きの困惑、そして怒りの表情に彩られていた。
「まさか、そんな荒唐無稽な話が……いえ、仮にそれが真実だとして、どうして殿下をそのような場所に……!」
「話を聞いていなかったのか? セレンは鍵の一人だ。世界を救うためにいなくちゃならないんだよ」
「ですが神の山は、今や魔族の巣窟と化しているのですよ」
「コーネリア。あたしは大丈夫。世界の為にあたしが必要なら、逃げるつもりはない」
「……わかりました。殿下がそう仰るなら、私も共に参るだけです」
「決まりだな」
メインガンでセレンの待ち人と合流したら、すぐに神の山に向かおう。
セレンが同行してくれることになったのは運命のめぐりあわせとしか言い様がない。
急がば回れとは、まさにこの事じゃ。




