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ゆさぶる

「座らないのか」


 所在なさげに立つコーネリアに、俺はそう語りかけた。

 しばらく反応はなかった。

 俺達は、黙りこくるコーネリアをじっと見上げる。


「……騎士達に、殿下に対する不信感が生まれています」


 絞り出されたのは、擦れた声。


「私は、どうにか弁明をと思いましたが……申し訳ありません。何も言えませんでした」


 唇を噛みしめるコーネリアは、沈痛な面持ちで俯いたままだ。

 場の空気は、更に重たいものになった。


 セレンがこちらを見る。

 一見、その目に感情の揺らぎはないように思えたが、実のところそうじゃない。

 翡翠の瞳には、懇願か、あるいは催促するような色があった。決して、騎士達の反応に落胆しているわけではないようだ。


 わかってる。

 セレンはこんな時でさえ、コーネリアが成長する機会だと捉えているのだ。


「とりあえず、突っ立ってないで座ったらどうだ?」


 俺の言葉に、コーネリアは素直に従う。

 俺達は四人でかがり火を囲む形となった。


「このままでは、団は崩壊します。夜が明ける頃には、何人か脱走者が出ているかもしれません」


 逃げたい奴は逃げればいいと、そう言えたら簡単なんだけどな。コーネリアの立場的に、それは看過できないだろう。


「団長のあんたが、あいつらをまとめるしかないって」


「それは、わかっています。ですが、私には人望がありません。エライア騎士団は、殿下の下に集まったのであって、私はあくまで形だけの長でしかないのです」


 そして、セレンへの不信感が募っている今、なんとか保てていた組織も崩壊しかけている。そういう感じってわけか。


「コーネリア。あんたはどう思うんだ?」


「え?」


「セレンに、不信感を抱いてるのか?」


「そんな……とんでもありません! 私が殿下を疑うなど……!」


「サーデュークの言葉には、惑わされないって?」


「もちろんです。たとえ父といえども、あのような戯言に耳を貸すほど落ちぶれてはいません」


「なぜだ?」


「え?」


「あいつらが不信感を抱いてるのに、どうしてあんたはセレンを信じ切れる? その理由はなんだ?」


「それは……」


 一瞬、口ごもるコーネリア。


「私は、殿下が家臣を切り捨てるような方ではないと知っています。王女としての殿下だけではなく、一人の人間としての殿下を、知っています。それが、理由です」


「じゃあ実際に騎士が死にまくったことに対してどう思ってるんだ。もっと早い時点でセレンが戦っていれば、誰も死なずに済んだかもしれないだろ」


 いま俺が口にしている主張は、おそらく不信感を募らせる騎士達の言い分と似ているだろう。あえてそういう意見を言っている。コーネリアの想いを引き出すために。


「私は……」


 視線を彷徨わせながら、コーネリアは再び口を閉ざす。

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