人生の密度
「ふるいに?」
「グランオーリスの王国騎士団は、腐敗していた。建国以前の貴族達の、就職受け入れ先のような組織になっていたし、そんな状態じゃ優秀な人材も集まらない。冒険者優遇の制度の弊害」
確かに、冒険者の方が待遇がいいなら、仕事のできる奴はそっちに流れるわな。
「騎士団には汚職が蔓延し、戦力としては形骸化していた。だから王室は、魔王の騒動に乗じて騎士達をふるいにかけることを決めた。あたしの護衛として戦い、生き延びるならよし、命を落とすなら、それまでの人材」
「……続けてくれ」
「お父様の予想通り、騎士の器でない者は死んだ。いま残っているのは、優れた者達ばかり。比較的、だけど」
あれで優れた者達とはな。
セレンの言う通り、この国の騎士団のレベルはお察しって感じだな。
「でも、死なせることはなかったんじゃないか? クビにするとかさ。他にやり方はあっただろ」
ほんの僅か俯くセレン。返事はない。
「いや、悪い。俺が口を挟むことじゃなかった」
騎士がもともとこの地にいた貴族だっていうのなら、政治的になんやかんやあるんだろう。
「お父様は、魔王を倒した後のことを考えてる。このまま腐敗した貴族達が政治や軍事に携われば、いずれ国はダメになる。それを防ぐため手を打った」
「一国の姫を……一人娘を危険に晒してまで?」
俯いていたセレンが、顔を上げて俺の目を見つめる。
「騎士は主のために命をかける。主の為に生き、主の為に死ぬ。あたし達も一緒。頭を垂れ膝をつく臣民のため、そして国家の未来のため、この命をかける」
俺はすぐに返事ができなかった。
その場にはしばしの静寂が訪れる。
難儀な話だ。
血塗られた歴史がある以上、綺麗事だけで片付く話でもない。
それでも俺は、セレンが騎士を見殺しにしたという事実を受け止めたくない。
「親父さんの、指示だったんだろ? ならまぁ、仕方ないよな」
だから、ついそんなことを口走ってしまった。
セレンは、今度は誰が見ても分かるくらい明確に、首を横に振った。
「あたしもオーリスの血を引く女。自身の行いを、親のせいにするつもりはない」
頭を金槌でガツンと殴られたような気分だった。
王女としての責任を果たし、自身の罪を背負う覚悟が、セレンにはある。
俺みたいな甘ったれた考え方じゃない。
この二年間、セレンがどんな風に生きてきたのかはわからない。だが、魔法学園にいた頃の未熟さは、もうほとんど感じられなかった。
同時に、俺が元の世界で過ごした二年が無価値であるように思えてくる。
アカネに依存し、のうのうと自堕落な生活を送ってきたツケだろうか。俺の精神年齢は、二年前からまるで成長していない。
俺は何も言えなかった。
アイリスも、空気を読んで無言を貫いている。
再びの無言。
そこに、暗い表情のコーネリアが戻ってきた。




