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むかしむかしあるとこに

 その日の夜。


 休息地の村に辿り着いた俺達は、一画に敷いた野営地でしばしだんまりを決め込んでいた。

 かがり火の薪がぱちぱちと小気味よい音を奏でている。


 火を囲むのは俺とアイリス、そしてセレンだ。

 空気は重たい。


「まずいことになったな」


 何の気なしに嘯く俺。


「伯父様が魔族になっているなんて予想外。計画に、支障が出た」


 セレンの声には、いつも通り抑揚がない。


「その計画ってのは、メインガンまでの旅のことじゃないよな?」


 頷くセレン。


「一体どういうことなんだ。サーデュークの言っていたことを信じるわけじゃないが、俺達も巻き込まれた以上はちゃんと説明してもらいたいぜ」


「長くなる」


「かまわないさ。どうせ朝まで暇なんだ」


 かがり火が、セレンの神秘的な美貌を赤く照らす。翡翠の瞳には、揺らめく炎が映りこんでいた。


「グランオーリス成立以前、この地には十数の小国が林立していた。オーリス公爵家は、その小国のうちの一つであるヴェルタザールの有力貴族。伯父様は公太子として、お父様は公子として共に育った」


 セレンが生まれるよりもっと前の話か。


「次男だったお父様は爵位を継げない。だから、冒険者になった」


「まじか。相続権がないからって、貴族の子が冒険者なんかに?」


 今でこそグランオーリスにおける冒険者の地位は高いが、昔はそんなことはなかったはずだ。王国と同じように、冒険者は貴族から見下されていたはずだ。


「もちろん。どこかの家の婿に入ったり、軍人として栄光を求める道もあった。けれど、お父様は自分の中の冒険心に忠実な変わり者」

 変わり者ね。確かにそうかもな。


「お父様には才能があった。すぐに頭角を表し、数年のうちにAランクになって、ヴェルタザール有数の冒険者になった」


「たった数年でか? すごいな」


「当時は小国同士の小競り合いが続いていて、功績をあげるための依頼は無数にあったから。その分、生き残る冒険者の数は少なかった」


 その中で生き残り、武功を上げ続けたのがセレンの親父さんってわけか。


「お父様は、公爵の息子としてではなく、一冒険者として名を上げていった。同時期に、お母様も一流の冒険者になっていた」


「じゃあ、セレンの両親は一緒に戦ってたんだな」


「ちがう」


「え?」


「お母様は、ヴェルタザールの隣国メサの出身。お母様はメサ随一の若く美しい女冒険者として国内に並び立つ者がいないほどの猛者だった」


「それって……」


 俺はなんとなく察する。

 首肯するセレン。


「若き日のお父様とお母様が出会ったのは戦場。最初は、敵同士だった」


「は」


 なんつードラマチックな展開だよ。

 話の核心に触れていないのに、ワクワクしてきたぞ。

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