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置き土産

「フフフ。流石はセレン王女殿下。凄まじき天賦の才ですな」


「喋った!」


 コーネリアがびっくりして飛びのいた。まるで乙女のような反応だ。


「喋るさ。我は生物ではなく、怨念が瘴気によって具現化した存在。言っただろうコーネリア。これこそ生命の到達点だと。父は人間を超え、神の領域へと至ったのだ」


「ふ、ふざけるな! 貴様のような化け物が誇り高き父を騙るとは!」


「自分を誤魔化すのはやめなさい。もうわかっているはずだ。我が本物の父であると」


「それは……!」


 コーネリアは何も言い返せない。

 やっぱりあいつは本物の父親らしい。それにしたって最低な親だな。


「我は間もなく消滅する。いくら生命の枷を外しても、存在ごと消し去られると為す術がない」


 可笑しそうに笑うサーデューク。

 なにわろてんねん。


「しかし、これではっきりしましたな」


 生首が声を張り上げる。


「これほどの能力を持ちながら、殿下は同行した騎士に無駄死を強いるばかりで、一切の手助けをしなかった! 何故だ!」


 なに?


「答えは明白だ! 最初から騎士を間引くつもりだったからだ。かつて我が弟レイが、建国の功を独占するために兄である我を見殺しにしたように!」


 周囲がざわつき始める。


「この国の王族はそういう輩なのだよ! 最初から、グランオーリス王室の歴史は血塗られているのだ!」


 サーテュークの哄笑が響き渡る。

 騎士達に動揺が波及していく。


 くそ。

 まんまと精神攻撃をくらってしまってるじゃねぇか。

 だが確かにこの状況じゃ効果覿面だ。


 コーネリアは青ざめた顔で、主である王女と、魔族と化した父を交互に見ている。

 セレンはやはり無表情で、高らかに笑うサーデュークを見下ろしていた。


 だしぬけに、耳障りな笑いが消える。

 上から降ってきたアイリスが、着地と同時にサーデュークの生首を踏み潰して爆散させたからだ。

 優雅に立つアイリスの足元から、瘴気の残滓が広がった。

 どうやら、モンスター達を全滅させたようだ。流石はアイリスだ。すごい。予想以上の活躍だ。


「あら。お話し中でしたか?」


 セレンは首を横に振る。


「いい。ナイスタイミング。もうちょっと早ければ、ベストだったけど」


 呟いてから、セレンは無残にも破壊された馬車へと振り返る。


「次の街までもうすこしある。日没までに着きたい」


「……は。では、すぐにでも出発致しましょう」


 困惑を隠せないコーネリアだが、騎士団長として冷静に振る舞おうと頑張っている様子が窺える。

 頷くセレン。だが、その足取りは、進路とは別の方向に向かう。


「彼らを手厚く葬ってから、出発する」


 その行き先は、サーデュークに殺された騎士達の死体だった。

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