激戦なのら
だが、俺はすぐ知ることになる。
いま感じているもどかしさ、無力感から生まれる苦悩が、そもそも自惚れでしかないことに。
「フリジットアロー」
上昇を続けるセレンが放ったのは、結晶を纏う氷の矢だ。
立て続けに数発。風を切って飛翔する。
サーデュークは全身を回転させてそれをかわそうとして、しかし全て直撃を受けていた。
「なにっ!」
軌道を乱され、サーデュークは咄嗟に体勢を立て直す。そのせいで攻撃は中止せざるをえなかったようだ。
「小癪な……!」
眉間を寄せるサーデューク。
セレンはローブを翻し、両手の剣を光の塊に変える。
「フリジットアロー・ブリザード」
その光の塊から、無数のフリジットアローが放出された。
視界を埋め尽くすほどの結晶と、冷気のオーラ。
俺の頬を寒風が撫でていく。
「なんと、そのような最上級魔法まで。流石、才能は親譲りですな! 殿下!」
その光景を目にしても、サーデュークにはまだまだ余裕があるようだった。
全身から瘴気を噴出させ、空を蹴ってさらに上昇する。
戦いは完全にセレンとサーデュークのタイマン。空中戦の模様を呈していた。
凄まじい速度でジグザグの三次元軌道を描くサーデューク。
あんな速さであんな動きをされたら、飛び道具を当てることは難しい。
だが。
「ぐえぁッ……!」
数えることもできない無数のフリジットアロー。その最初の一発がサーデュークにヒットする。結晶が散り、サーデュークは大きく高度を落とした。黄金の鎧の一部が凍てついている。
間髪入れず、猛烈なフリジットアローの束がサーデュークに襲いかかる。
まるで高性能なミサイルのように、複雑な軌道を描くサーデュークを正確に追いかけていた。
着弾。着弾。着弾。
吹き荒れる冷気。
ヒットする度、サーデュークの動きは精彩を欠いていく。
「ヌッ! 何故だッ! 避けているはずだッ!」
フリジットアローは一つとして外れることはない。信じられないほどの追尾性能だ。
回避は不可能だと悟ったサーデュークは、ハルバードによる斬り払いを敢行する。
いくら追いかける能力があるといっても、フリジットアロー一つ一つに大きな攻撃力はない。サーデュークは動きを止め、確実に防御を成功させていた。
だが、それこそセレンが望んだ展開だ。
いつの間にか着地していたセレンは、サーデュークがフリジットアローに手をこまねいている間に、強力な戦闘魔法の構築を始める。
「……すごい魔力だ」
セレンを中心に膨張と収縮を繰り返す膨大な魔力が、強い閃光となって一帯を照らす。
その小さな頭の上に、青白く輝く輪っかが浮かび上がる。
まさしく天使の輪。見た目は可愛らしいというのに、俺の目にはその奥にある本質が見て取れる。すなわち、雪山に吹き荒ぶ死のブリザード。
「フリジット・エンジェルハイロゥ」
祝詞のような呟きが、静かに響き渡った。




