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かなりの強敵じゃ

「どうして……なぜ……」


 死んだはずの父親が実は生きてましたってなったら、そりゃ今のコーネリアみたいになるわな。


「本物なのか……?」


「だが、公爵様は亡くなられたはずでは……!」


「そうだ。その通り……先の戦争で、勇敢に戦い、戦死したと」


「なら、今俺達の目の前に立っているのは、誰なんだ……?」


 騎士達も困惑を隠せていない。

 まずいな。これはよろしくない事態だ。


 俺はやっとこさサーデュークに追い付く。

 背後から斬りかかってやろうと思ったが、まったく隙のない背中は俺の奇襲に完全に備えているようだ。

 俺は高く跳躍し、サーデュークを飛び越えてコーネリアの前に立つ。


「惑わされるな!」


 俺のマジでかっこいい叫びが響く。


「あいつは魔王軍の四天王。魔物なんだ。公爵の姿を真似てみんなを騙そうとしている。そんなこともわからないのか!」


「ロートス、しかし……あのお方は」


「言うな」


 奴が本当にコーネリアの父親かどうかなんてどうでもいい。

 いま重要なのは、この状況をどう切り抜けるかだ。


 後方ではアイリスが三体のモンスターを食い止めてくれているが、それもいつまでもつかわからない。

 突然現れた公爵に戸惑って動きを止めちゃ、最悪だ。


「お姫様の安全だけを考えろ。あんたはその為の騎士だろう」


 コーネリアの瞳に光が戻る。


「突破します! 全軍、前へ!」


 力強い号令。

 騎士達も腹を括ったようだ。

 あとは、俺がサーデュークの足止めをすれば。


「フン。愚かだな」


 動き始めた馬車の車輪が、投擲されたハルバードの一撃で木っ端微塵に砕け散った。


「え?」


 一同、唖然。

 馬車は傾き、音を立てて大地を削りながら停止した。


「殿下!」


 セレンの安否を確認するため馬車に駆け寄るコーネリア。

 ちょうどそのタイミングで、馬車の扉が内側から開かれた。

 傾いた馬車から出てきたセレンは、ぴょんと飛び降りる。相変わらずの無表情。よかった、無事みたいだ。


「殿下……!」


 心配するコーネリアの脇を通り抜け、セレンはスタスタと歩く。向かう先は、サーデュークの方だ。なんでだよ。


「お久しぶりです。伯父様」


 ローブの裾を持ち上げ、セレンは型にはまった一礼をする。

 おいおいマジか。

 お前がそんなことをしちまったら、こいつを本物の公爵だって認めるようなもんじゃねぇか。何を考えているんだ。


「大きくなられましたな。王女殿下」


 サーデュークの表情が、ふと和らいだ。それはまさに、成長した姪っ子を見る叔父の顔に違いない。


「叔父様も、随分とお変わりになられたようで」


「ハハ。そなたにはさぞ邪悪な姿に見えていることでしょうな。だが、これぞ魔王様に仕えるに相応しき姿。人を超えた生命の到達点なのです」


 何をバカなことを。


「ただ悪趣味なだけだろ」


 金ぴかの鎧なんか着やがってよ。

 俺の率直な感想に、サーデュークは嘲笑する。


「貴様のような半端者にはわからぬ」


「なんだと?」


「まったく見ていられぬ。今にも瘴気に喰い殺されそうではないか」


 それでも頑張ってるんだよ俺は。誰か評価してくれ。


「叔父様」


「おっとこれは失礼。殿下とお話の最中でしたな」


 サーデュークの手から瘴気が生まれ、それがハルバードを形成する。


「そなたに恨みはありませぬが……死んでもらう」


 誰も、俺さえも反応できなかった。

 ハルバードの切っ先が、セレンの薄い胸を貫いた。

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