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頑張ったロートス

「元気そうだな、サラ」


 思わず笑みが零れる。サラの明るい声を聞くと心が安らぐぜ。


『ご主人様、今どちらに? 帝国に向かったってアイリスから聞きましたけど』


「ああ、帝国にいる。エレノアに会ったぞ」


『えっ? ほんとですか? 一緒にいるんですか?』


「いや。詳しいことは帰ってから話す。今から帰るから」


『あ、それならちょっと前にアイリスがそちらに向かったのです。ご主人様のいる場所を教えてくれたら、ボクからアイリスに連絡しておくのです』


「助かる。タシターン枢機卿の治める都市にいる。かなり崩壊してるから、空から見たらすぐわかるはずだ」


『崩壊? それって……大丈夫なんですか?』


「心配ない。それも含めて、帰ってから話すよ。それより、エルフ達はもうそっちについてるか?」


『はい。アイリスが族長達を連れてきてくれました。これから各種族の説得に向けて会議をするところなのです』


「よかった。よろしく頼むぞ」


『ご主人様の従者として恥じないはたらきをします。ボク達亜人の未来の為にも』


「ああ。期待してる」


 通話終了。

 俺はふうと一息つく。

 ヒューズがこちらに歩いてきた。


「お帰りかい?」


「ああ。迎えがくるから、送ってくれなくていいぞ」


「聖女様はどうするんだい? あなたは彼女にご執心だったように思うけど」


「今は、すこし時間が必要だ」


 そりゃできることなら今すぐにでも会いに行って連れて帰りたいさ。

 でも、今の俺には無理だということがわかった。一人でできることには限りがある。

 それに、他にしなければならないことも山積みだ。


 亜人連邦のこと。

 ジェルド族に奪われたアナベルや、まだ再開していない人達のこと。

 呪いのこと。

 世界のこと。

 他にもある。


「後回しってわけじゃないが、できるところからやらねぇとな」


 だから今は、急いでみんなのところに帰ろう。


「ロートス殿。英雄たる貴殿に何のご恩返しもせずお返ししてはご先祖に顔向けができませぬ。私にできることがあれば、いかなることでも申しつけください」


 タシターン枢機卿がそんなことを言い出した。

 うーん。


「でも、この街の復興とかで忙しいんじゃないですか? 人もお金も要るだろうし」


「ご心配なく。私は枢機卿です。ある程度なら、国の財政を操作できます。人材も同様に」


 まじか。

 枢機卿ってすごいんだな。


「それなら、亜人連邦の支援を頼めませんか。もともと俺は使者として来たんだし」


「具体的にどのような支援をお望みですか?」


「マッサ・ニャラブ、とういうよりジェルド族の影響下から抜け出したい。奴らの国力を低下させて、こっちの力を強くする。戦わずに独立できるのが理想だな」


「ロートス、それは」


 ヒューズが口を挟んだ。


「図々しいとは言わないが、流石に厳しいよ。亜人連邦が独立できるほど力をつけることには、皇帝陛下が難色をお示しになるだろう。枢機卿にもお立場がある。政治的な独断は下せない」


「まぁ、やっぱりそうか」


 ダメ元で言ってみただけだから、別にいいけど。


「いえ。可能です」


「えっ?」


「表立って亜人連邦を支援することはできませんが、裏から手を回すことはできます。我が国は方々の国家に物流を行き渡らせていますから、そこに紛れさせれば、物資や人員を送ることは容易い」


「貿易を利用するというわけですか」


「いかにも」


 なるほど。それならいい感じになりそうだ。


「わかった。可能な分だけでいいので、連邦の支援を頼みます」


「お任せください」


「それともう一つ。聖女エレノアの様子について報告がほしいんです」


「聖女の様子を?」


「そうです。できる限り詳しく」


「……それは構いませんが、あまり期待はして下さるな。聖女の周囲は女性のみで編成された守護騎士によって固められています。とはいえ今から女を送り込んでも入る隙などない」


「なにか手が?」


「ヒューズを送り込みます。この者は顔が広い故、適任でしょう」


 ヒューズは小さく頷く。仮面の下はドヤ顔になっているに違いない。


「わかった。よろしく頼みます。連絡は念話で寄こしてください」


「かしこまりました」


 さて、なかなか大変な一日だったが、それなりに収穫はあったかな。

 とはいえ、ここからが本番だろう。

 ま、せいぜい器用にやってみるさ。

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