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「くそっ……!」


 ちょっと無理しすぎたかもしれない。

 肺に溶けた鉄を流し込まれたみたいだ。


「行け!」


 俺は兵士達に手を振る。

 顔を見合わせた兵士達だったが、やはりそこはプロ。すぐに住民の避難誘導に移っていった。


 その兵士達の背中に、飛来した砲弾が直撃する。

 ボディアーマーごと、数人の兵士達はバラバラになって吹き飛ばされていった。


 声も出ない。

 つらたんとは、まさにこの事だ。

 周囲をブラッキーの群れが走り抜けていく。瓦礫を乗り越え、死体を踏みつぶしながら、新たな死体を量産していく。


 帝国の朝に訪れた地獄。

 俺の力じゃ、このあたりが限界か。

 脚を引きずりながら離脱を試みる。


 どういうわけだか、ブラッキー達は襲ってこない。俺を無視して、市民や兵士達を攻撃している。

 俺は爆風に煽られて、地面を跳ねながら建物の陰に転がり込んだ。


「……こいつぁ、ピンチだな」


 これまでも死にそうなことは何度でもあったし、実際に何度も死んできた。

 だけど、今の俺は命が一個しかない。


 残機ゼロ。

 これは完全に俺のミスだ。

 ブラッキーの奴らを甘く見過ぎた。というより、瘴気をか。


 建物の残骸に背中を預けて座り込む。

 上半身に瘴気が回ってしまっているせいか、動くこともままならない。


 そんな時だ。

 傍に何かが現れる。

 ブラッキーではなく、モンスターだ。人間サイズのウサギのようなやつ。そいつは俺をじっと見つめている。敵意はなさそうだ。ぱっと見、瘴気に侵されていない。


 だが。

 周囲に満ちた瘴気が、そのウサギに流れ込んでいく。口、耳、鼻から、黒い瘴気が吸い込まれていく。

 そしてびくりと震えると、全身に瘴気を纏い始めた。


「おいおい……」


 黒く染まった瞳が俺を見る。

 明確な殺意が生まれていた。


 耳をつんざく鳴き声をあげて、俺に飛びかかってくるウサギ。

 今の俺に、それを退ける力は残っていない。


 ここまで頑張ってきたが、まさか最期はこんなウサギに殺されるとはな。

 悔しいが、ここまでか。


『フラーシュ・セイフ』


 どこからともなく響き渡った荘厳なる声。

 それと同時に上から降ってきた光の刃が、ウサギを貫いて地面に釘付けにした。

 ウサギは即死。纏っていた瘴気は、ぱっと弾けるように白い粒子に変わった。


「なんだ?」


 空を見上げると、無数の光が雨のように降り注いでいる。

 それらは全て刃の形状をしており、ひとつも外れることなくブラッキー達に直撃していた。

 千近いブラッキーが一瞬にして沈黙する。

 それだけじゃない。ブラッキー達が振りまいていた瘴気が、白く輝く粒子となって空へと還っていく。


 瞬きする暇もない。

 都市を覆っていた瘴気は、たった数秒で浄化されていた。


 俺は改めて、光の刃が降ってきた上空を見上げる。

 そこには、白い法衣を身に纏い、青みがかった長い髪をなびかせる、エレノアの姿があった。

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